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永島徹の「風」の贈り物

兄の思い、弟の思い

 「あの子は兄弟の中で、一番手のかからなかった子なんです」
 弟・茂雄さんの昔の様子を思い出しながら話をしてくれた、兄の春男さん。最近、ある相談機関から依頼のあった、茂雄さんの成年後見申し立て事前面接でのことです。
※氏名はいずれも仮名です。

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 春男さんは、自身も高齢になり、弟のことを思っていてもなかなか力になることができません。それでもせめて、兄としてできることはしてやりたい…。そんな思いで、不自由な身体をなんとか奮い立たせるように、関西からはるばる栃木にやってきてくれました。
 「茂雄はしっかり者で人生設計をきっちりとして、親や兄弟からも『ほんまに、手のかからん子やでぇ~。ありがたいわぁ』と言われていたんです。中学卒業後、すぐに金の卵として就職してしもうたし。そんな子が、何でこんなんになってしまわなきゃあかんのやろう」
 茂雄さんへの思いを、切実に語り続けました。

 茂雄さんは関西地域に育ち、中学卒業後はすぐに大手企業に就職。その後、新規会社進出ということで栃木に移り住み、しっかりと勤め上げたということです。しかし、家庭を育むことなく一人で生活してきました。
 「結婚でもしておったら、こないなことにならんかったかもしれんしなぁ」(春男さん)
 中学卒業後、約60年近く一人で考え、生きてきた茂雄さん。今は精神的な病を抱えながらの生活を余儀なくされているものの、これまで、幾度もあったであろう人生の危機を一人で乗り切り、生活をされてきました。
 「家族には心配をかけたくない。自分のことは自分でやっていく」
 そんな思いを柱に、生きてきたのでしょう。しかし、自分の老後のためにコツコツ貯めてきたお金の大半を、詐欺で失ってしまいました。まさか自分がそんなことになるとは、茂雄さんは思いもしなかったでしょう。そして、そのことで兄弟に心配をかけてしまうことになるとは……。
 茂雄さんは現在、入院中で、医師の診断では「保佐程度」という診察を受けている状態です。これから安心して生活できる場所を探そうということで、医療スタッフや地域包括支援センター職員との連携のもと、本人との話合いも進められています。

 前述の面接の終わりに、弟を思う兄・春男さんに私はこう伝えました。
 「兄弟の中で一番しっかり者で手のかからない子だ。これからもお兄さんたちにそう思っていただけるように、茂雄さんのお手伝いをさせてもらいたいと思います。それが、茂雄さんが生活上で大切にされてきた思いでしょうから……」
 これからの茂雄さんの生活にかかわらせていただくことになる私は、先述の兄の言葉から、あらためて茂雄さんの若き日の頃をイメージしつつ、その時描いていた思いを、これからの茂雄さんの生活の中に映し出していけたらと思うのです。


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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

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