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永島徹の「風」の贈り物

ヘルプマンは「あたりまえのことができる人」!!

 私たちが年齢をとっても、病気になっても、障がいをもっても安心して生きて、逝けるために、必要なのは何でしょうか……。
 専門職の支援が必要なことももちろんありますが、もっと身近な人の、自然であたりまえな(それがあたりまえでなくなってしまっているのが現実なのですが)かかわりが大切です。

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 きよさん(仮名)はそのことを教えてくれています。
 きよさんは、息子さんと短大生のお孫さんとの3人暮らし。お孫さんがまだ幼稚園の頃に、息子さん夫婦が離婚。きよさんは母親に代わり、お孫さんを育ててきました。
 「孫に寂しい思いだけはさせたくなくて、夢中でやってきたよ」
 と話すきよさん。そのきよさんも、加齢とともに家事が思うようにできなくなっていきました。ここ数年は視力も落ち、明暗はわかるものの、手探りで這うようにして家の中を移動する状態です。
 きよさんの今最大の心配事は、お孫さんのこと。いつ出かけ、何時に戻ってきたのかもわからない。友人の出入りもあるようですが、自分の目でどんな人がきているのかを確かめることもできません。
 家族で食卓を囲むこともなくなり、一人手探りでテーブルの上にある食べ物を口に運ぶ日々。以前のように孫の世話をしてあげられなくなった自分にすっかり気落ちしてしまっているきよさんは、「情けない…。こんなんじゃ…」と繰り返し、最近では意欲の低下や失見当などもみられます。
 そんなきよさんに対する専門職のかかわりはいろいろ考えられると思いますが、今きよさんが安心して生活するために必要なのは、特別な支援よりも「行ってきます」「ただいま」「おばあちゃん、温めたご飯を用意しておいたからね」そんな、お孫さんからのちょっとした声かけです。

 私も中学生の頃、病に臥していた祖父に自然にかかわれない自分がいました。バイクの後ろに私を乗せ、いろんなところに連れていってくれた祖父。病気になり弱っていく祖父と、どうかかわったらいいのか…。怖かったのかもしれません。
 「徹、徹…」と私を呼ぶじいちゃんの小さな声。隣りの部屋で漫画を読んでいた私は、その声が聞こえていたのに、側にいくことができませんでした。
 その数時間、後祖父は息を引き取りました。きっと祖父は、私にも何か伝えたいことがあったに違いありません。「人としてあたりまえのかかわりが大切。相手の思いと向き合うことが必要。」なんて言っている自分自身が、自分の名を必死に呼んでくれている祖父の側に行くという、あたりまえのことすらできなかったのです。
 私たち一人ひとりが、あたりまえのことをあたりまえだと感じて行動することができたら、それだけでとても大きな生活(いきる)こと支援の力となります。
 前々回のブログで「私たち一人ひとりがヘルプマン」だと言いましたが、ヘルプマンとは、「人としてあたりまえのことに気づき、自然に行動できる人(あたりまえのことができる人)」ということも加えておきたいと思います。
 私もまだ気づけていない「あたりまえ」がたくさんあると思いますが、気づこうとする自分であり続けたいと思います。そうすることで、祖父が自分に伝えたかったこともわかってくるような気がします。


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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

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著者:永島徹
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発行:中央法規出版
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