気づかぬ思い
何が自分をこんなに不安にさせているのか? なぜ自分がそうしてしまうのか? いったい自分は本当はどうしたいのか? など、日常の生活の中で、自分の思いなのに自分でもわからないことは少なくありません。思いはそれだけ深く、複雑なものです。
そのことを私は、最近娘から、あらためて気づかされました。小学2年生になり、学校の先生との関係、友達との関係など、娘は家族以外の社会との関係をどんどん広げていっています。その中で、娘なりにさまざまなことを感じ、成長しているのでしょう。
ある日私は、娘が大好きで集めていた、お菓子のおまけの人形の顔が、黒いマジックで塗られているのに気づきました。書いたのは他でもない娘自身でした。
問い詰めたりはしませんでしたが、「顔が汚れちゃってかわいそうだね」と声をかける私に、叱られると感じたのか、「ごめんなさい」と娘は小さな声で答えました。娘は、よくないことをしてしまったという気持ちはあるものの、なぜ自分がそうしてしまったのか?自分の思いに気づいていないようでした。私は、大きくゆらいでいる娘の思いを感じながら、その理由がわからず心配していました。
それから数日後、私は、娘の思いにようやく気づくことができました。人形の顔を黒く塗る少し前に、娘は風邪をひき、市販の薬を服用した後に、たまたま湿疹が出てしまいました。湿疹は背中や顔にも現われ、病院に受診し、薬のアレルギーということでした。
他の人にうつる心配はないということなので、念のため一日だけ学校を休んで、その後は普段どおり登校させました。しかし、数日経っても残っていた赤い湿疹を、私が思っていた以上に娘は気にしていたのです。
お友達から何気なくかけられる「顔が赤いね」「ぶつぶつができているよ」などの言葉も、娘の心に重く残ったようです。娘は、言葉にできない不安な思いを、人形を通して現わしたのです。黒く塗られた人形の顔は、娘の思いそのものでした。
「湿疹のこと、すごく心配だったんだね」
「すぐに気づいてあげられなくてすまなかったね」
そう言って抱きしめると、娘はうなずきながら声を出して泣き始めました。自分自身の不安な思いに、娘はこのとき気づいたのでしょう。そして、ようやく安心することができのだと思いました。泣きやんだ後の娘の顔からは、すっきりとした晴れやかな表情がこぼれていました。
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