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永島徹の「風」の贈り物

「認知症」からの教え

 認知症という病気は、今の社会で私たち人間がいきていく上で必要なものが失われてきているということを教えてくれます。生きていくのに必要なもの、それは、人と人との関係や連携、協力といった「つながり」です。

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 『とんとんとんからりんと隣組』という歌がありますが、かつては存在していた隣近所のたすけあいも、最近ではとんとみられなくなっています。興味本位で遠目で見ていることはあっても、他人に対して、良い意味での関心をもつこともなくなってきています。高齢者に限らず、大きな社会問題となっている児童虐待についても、この「つながり」の希薄さ、弱まりが関係しているといえるでしょう。

 人は誰も、一人では生きられません。「いや俺は、私は、誰の世話にもならない」と言う人もいるでしょう。特に、力も健康も今自分のもとにある人はそう感じるかもしれません。でも、考えてみてください。私たちが生まれたときのことを…。もし、そのまま誰の支えもなかったら、一日だって生きていくことは難しいのです。
 こんな話を聞いたことがあります。
 「自分が子どもの頃には、近所になんだか不思議なことをするおばちゃんが住んでいた。今思えばそのおばちゃんは、認知症だったんでしょう。もちろん、そのころは介護サービスなんて何もなかった時代だけど、おばちゃんは近所の人のところにお茶のみに行って、みんなも自然におばちゃんとつきあっていたんだよな」
 おばちゃんの変化を感じながらも、自然に受け入れ、支え合える関係性が、かつての社会には存在していたのです。もちろん、その頃と今の社会状況は大きく変わってきています。同じような関係性を求めても難しいことでしょう。
 それでも、私たち人間は、一人では生活(いき)られない。無限に健康で誰の力も借りずに生き続けることは不可能です。私たち誰もが、有限・無常の時を生かされている存在であることを受け止め、「お互いさま」の心で支え合っていく人と人とのつながりの必要性をあらためて認識していくことが大切です。認知症とともに生活(いきる)人々は、そのことを身をもって伝えてくれています。
 認知症の人の数はこの先、現在予測されている以上に増えていくと思います。身近なところでも、「あれ、なんだかおかしいな?」「話がなかなか通じないぞ?!」なんてことが増えてくるでしょう。そんな時、「自分には関係ない」と排他的に地域からはじき出してしまうようなことを続けていたら、十数年後の私たちが暮らす地域社会には、主を失った空き家が点在し、それまで地域を支えてきた高齢者の姿がなくなってしまうことになるでしょう。
 私たち一人ひとりが、「認知症」からの教えをしっかりと受け止め、これから先も、自分たちが安心して暮らせる地域社会を育むことに活かしていければ、そんな社会になることを防ぐことができるではないでしょうか。


コメント


 Kさん、Gさんのことが書かれたブログ読ませていただきました。
 今自分が関わっているケースに、同じような訴えをされている方が居ます。永島さんの話、とても参考になりました。
 最近の相談には、殆どと言って良いほど認知症の症状が入ってきています。「一人暮らしは危ない」と周りの人は施設入所を希望します。本人にとっても施設の方が安心だろうと入所の話が進んでいきます。
 こんなふうにどんどん施設に送り込む(言葉は悪いですが)ことが、果たして本当に良いのだろうかと疑問に思っています。しかし、現実問題として在宅での生活を支えていける環境を整えられない力の無さを痛感しています。
 永島さんのお住まいの地域が羨ましいです。どうしたらそのような地域を作れる、育てていけるのか知りたいです。


投稿者: スマイル | 2008年01月24日 00:23

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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

【永島徹さんの最新刊】
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著者:永島徹
定価:¥1,890(税込)
発行:中央法規出版
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