「思い」が活きる町
夏といえば「祭り」をイメージする人も多いでしょう。今夏も全国各地でいろいろな夏祭りが催されていると思います。
私の住む町でも、今年で31回目を迎える地元の祭りがありました。子どもから人生の大先輩まで参加する夏祭りです。夏祭りといえばお囃子、御神輿や屋台という風物詩が盛りだくさんですよね。私の町でも「よさこい」という踊りが盛んで、年齢層の高い方々が、すばらしいデザインの衣装(昔の竹の子族!?も顔負け)を着て、軽快なリズムとかけ声で町を練り歩きます。
「ソリャー~ぁ」という威勢の良いかけ声のシルバーパワーが輝き、それに負けじと、子ども達の御輿が各町内から繰り出します。今年の我が町内の御輿は、ひときわ熱がこもっていました。
大人は、子ども御輿に『子ども達がすくすくと元気に成長していけるように』という思いを込めて、毎年準備しています。その準備を長年請け負っていたE夫さん(御年80歳)は、これまで以上の思いを込めて取り組んでいました。
「わしゃ、今年が最後かもしれん。もう80歳だからな」と町内の人に話すE夫さん。
「そんなことをおっしゃらないで、来年もぜひお願いしますよ」
そんな声に、優しい表情を浮かべながら「ここのところ暑さがきびしかったからな~。夏バテしてしまったんだよな。もう少し涼しくなったら元気もでてくるだろうよ」と応えてくれました。
息子さんも見守る中、E夫さんは今年も、長年続けてきた御輿の準備を進めていきました。「この組んでいる交差部分が肝心だ。ゆるんだら御輿が崩れる」そう若い者たちに伝えながら、渾身の力をいれて御輿を飾っていきます。
そして、今年も準備ができあがりました。お酒と塩でお清めをし、「決まりごとだから、一応みんなでやってくんなね」そう私たちに話し、全員で並んで二礼二拍手一礼をしました。すべて終えるとほっとした表情で、「それじゃみなさん、後は頼みますね」と笑顔で帰られました。
涼しくなったら、きっとまた元気になられる。来年も御輿を準備するE夫をさんの姿が見られるにちがいない。私たちは「入院が必要だと言われている。そしたら、もう帰れないと思う。本人には話してないけどね」と息子さんから伺うまで、そう思っていました。
その後、御輿を運ぶために、持ち上げると、「ここが重要だ」と、さっきE夫さんが力を込めて縛っていた紐がゆるんでいることに気づきました。その場にいた全員が、E夫さんの身体の状態と、強い思いを感じた瞬間でした。
「ワッショイ、ワッショイ」
元気の良い子ども達のかけ声とともに、E夫さんがまさに命をかけて準備してくれた御輿が、町を練り歩きました。来年も、その次の年も、私たちの住む町の祭りは続いていくでしょう。「暑くて、大変だな~」などと言いながらも、祭りを通して私たちは、みんなで一つのことに協力して取り組む機会を得ることができるのです。
私たちが暮らす町は、そこで活きてきた人々の思いで支えられ、育まれてきたのだということを改めて実感し、心が震えた暑い夏でした。
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