生き甲斐から生まれる新たな力
ある日の「風のさんぽ道」(地域密着型認知症デイサービス)での出来事です。
「ドッターン」と、浴室からの大きな音。すぐ職員が駆け寄り「A夫さん、大丈夫ですよ、安心してください。私がそばにいますからね」と声をかけます。通い始めの頃、A夫さんはてんかん発作を起こすことがありました。
A夫さんにとって、脳血管認知症と合わせ、てんかん発作を抑制する薬は欠かせないものです。しかし物忘れから、薬を飲んだかどうか忘れてしまうため、時おり発作を起こしてしまいます。生活の中において、必要な薬の服薬は大切です。本人のみならず、ご家族や私たち専門職がきちんと理解して支援していくことが重要です。
そのような日々の中で、A夫さんは、とにかく自分の役割を遂行しようとするため、無理をしてしまうことがあります。年齢も若いことから、「自分はお年寄りの世話をするためにここに務めている」と意気込んでいます。そしてとても優しく、高齢者の誘導をしてくれています。
昼食には、配膳やご飯のおかわりまでも聞いて歩くのです。ときには、私たちが主催する研修会の会場づくりまで出かけていくことも。しかし、途中何をしているのか忘れてしまったり、夕方になると「八ヶ岳に帰ります」と自分のいる場所が分からなくなってしまうときもあります。
そんなA夫さんですが、今では風のさんぽ道を卒業して、妻の仕事の手伝いをして生活しています。最近では、電話に出るときにはメモを取るようになっているとのこと。年に数回のイベントには、颯爽と登場して一生懸命手伝いをしてくれるA夫さん。その姿から、人間は老いや病気で失ってしまうものがあっても、前向きに自分の生き甲斐・役割が見つかることで、新たな力を見出す可能性があるとあらためて学びます。
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