燃ゆる四国
高知県四万十市で40℃を超える暑さが日本記録に向けてはじまった頃、私は松山市で開かれた虐待防止研修に講師として参加してきました。200名を超える知的障害領域の支援者の皆さんが四国中から集まり、熱い研修会となりました。その後は、高知のよさこい祭りとなり、暑い街中は2万人を超える踊り子さんたちの熱気に溢れていました。
四国地区虐待防止研修会
障害者虐待防止の研修会では、全国のどこに行っても参加者の皆さんは本当に熱心です。講師役を私がお引き受けする際は、通常の研修よりも長い時間をとっていただくようにお願いしています。虐待防止のために考慮しなければならない視点と内容が広範多岐に渡るため、90分では収まらないからです。
長時間に及ぶ研修となっても、参加者の皆さんの集中力は研修会の最後まで途切れることなく、質問も多く寄せられるという点が、この間に私の経験してきた虐待防止研修の特徴です。愛媛の研修会も、まさしくその通りでした。フィールドや地域の虐待防止に資する具体的で実践的な視点と手立てを深めていこうとする支援現場の皆さんの意欲的な姿勢には、頭が下がります。
皆さんの集中力はすごい
とりわけ、四国地区知的障害福祉協会の皆さんは、四国ならではの交流とまとまりを作ってこられた経緯があるため、交流会の中でも多彩な意見交換が展開されて実に気持ちのいい研修会でした。暑い中、本当にご苦労様でした。
いろいろなところでときおり耳にするのは、他の虐待防止研修の内容に関する不満です。法的な理念や定義、制度上の仕組などの説明に多くの時間を割き、事例や事実確認のための方法や面接についても通り一遍の内容で、「なぜこのような事例を典型例として出すのか訳が分からない」「なぜこのような方法・面接を引っ張って来るのか意味不明」などの指摘があります。
実際、他の研修会で用いられた資料を含めて吟味してみると、多くの支援者が疑問を抱くのも無理はないと考えざるを得ないことがあります。研修を実施する側に、アリバイ的な調査研究や事業欲はあっても、虐待防止のための真実を解き明かそうとする課題意識と姿勢はいささか希薄なのでしょう。
路面電車と松山城
「鯛めし」と「じゃこ天」に舌鼓を打って、松山城を背景に路面電車の走る松山を後にすると、60周年を迎えた怒涛のよさこい祭りに燃ゆる高知に赴きました。まずは、あじさい園の皆さんから美味しいお刺身で歓待を戴きました。
やはり鰹の叩きはべらぼうに旨い
正直言うと、よさこい祭りについてこれまで無知蒙昧だった自らの不明を恥じました。暑いよさこい祭りの熱い踊り子の皆さんの本気度には、いやはや脱帽、もう感動!!
高知の方から「一見に値しますよ」と誘われはしましたが、阿波踊りとの違いも知らず、「よさこい節にのせた盆踊りを高知流に派手に賑やかにしたもの」程度の浅はかな認識でした。
前夜祭の帯屋町筋演舞場で
最初の感動は、よさこい祭り参加チームのすべてに共通する筋金入りの本気度です。1チームは100~200人位で構成され、60周年を迎えた今年は県外チームを含めて200チームを越える参加となりました。この猛烈な暑さの中で、高知市内中心部の商店街や競演・演舞場で、鳴子を手にした2万人を超える老若男女が、一糸乱れず見事な踊りを披露しているのです。これだけで壮観です。
京町筋に踊るジュニアチーム
次に、よさこい祭りは、祭りにふさわしい能天気さに突き抜けている点が実に清々しい。この日ばかりは、「浮世の嫌なことをすべて放ったらかして極楽に行きましょうよ」と言うような感じで、民衆的平等感に溢れています。障害者支援施設あじさい園には、高知リハビリテーション学院の学生さんたちのチームが訪れ、踊りがはじまるな否やさっそく利用者の何人かが踊りの輪に加わっていきました。
高知リハ学院チームとあじさい園の利用者
そして、チームの多彩さにも驚きます。地域、職場、学校を中心に結成されたチームをはじめ、全国各地から参加するチームも多数あります。職場単位のものは、高知県トラック協会、大手美容院チェーン、パチンコ経営企業、医療法人社団などあらゆる職域に及び、社会福祉法人の出場チームでは車いすの踊り子さんたちもみごとに踊っていましたし、車いすの介助者も車いすをただ押すのではなく、介助しながらちゃんと踊る振付けが工夫されていました(よさこい祭り2013高知における各チームの踊りは、YouTubeでご覧いただけます)。
さらに、各チームの衣装・振付け・音楽に対する徹底した追求ぶりを指摘しなければなりません。これらは半端なものではなく、プロの振付師、作曲家・演奏者に録音にかかる経費を含め、相当なお金をかけてこの祭りに臨んでいる本気度が窺えるのです。それぞれのチームには音楽を流すための「地方車」(ぢがたしゃ)が踊り子チームに付いて移動します。この地方車はスピーカーと照明装置をつけてそれぞれに工夫された装飾を凝らしていますが、これだけでも相当のお金がかかっているでしょう。
国立高知高専チームと地方車―困った時のK氏の後輩たち!!
最後に、とどめの感動です。よさこい祭りに結集したチームの踊りと音楽は、わが国における近代以降の踊り文化と音楽文化の結晶または総決算となっていることは間違いありません。よさこい原型の正調である踊りと音楽は高知県庁・高知市役所・四国銀行のチームだけで、その他のチームはもの凄いバリエーションです。日本舞踊ありフラメンコありフラダンスあり、演歌ありロックありヒップホップありで、それらは決して何でもありの雑なコンビネーションではなく、よさこい節と踊りに見事に結合した表現と作品に仕上がっています。現代日本の多彩な踊りと音楽のあり様を最大限に活かし発展させる、まことに水準の高い踊りの競演でした。
もし、AKB48やエグザイルがよさこい祭りにエントリーしても、はたして「よさこい大賞」を取れるかどうか? 個人的にはAKB48とエグザイルに一度はよさこい祭りにチーム参加してほしい気持ちが湧き上がるとともに、民衆による高い水準の踊り・音楽が、毎年暑い高知で繰り広げられてきたという迫力のある事実を前に、圧倒されたよさこい祭りでした。
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