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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

いよいよ金環日食!!(2)太陽・日食をめぐって

太陽・日食と神々
 人間は昔から、太陽のはかり知れない恩恵を受けとめ、太陽を神と崇めてきました。古代エジプトのラー、ギリシャ神話のヘリオスとアポロン、ローマ神話のアポロ、そして日本神話の天照大神(アマテラスオオミカミ)。インカ帝国には有名な「太陽のピラミッド」があります。
 ギリシャ神話のヘリオスやローマ神話のアポロは男性であるのに対し、日本神話の天照大神は女性です。わが国における女性解放運動の草分けである平塚らいてうも文芸誌『青鞜』創刊の辞で「原始、女性は太陽であった」といさましく宣言していますから、日本の歴史を鳥瞰すれば、大部分の時代は男が日影者だったのかも知れません。
 「天の岩屋戸」の神話は、素戔嗚尊(スサノオノミコト)の乱行にたまりかねた天照大神が天の岩屋戸にこもってしまうとこの世は暗闇となったため、天照大神を天の岩屋戸から引っ張り出すのに神々が苦心惨憺するお話です。現代に生きる私には、スサノオノミコトはわが国におけるDV男のはしりだったのではないか、女性を怒らせることほど怖いものはないという男への戒めなのではないかと、さまざまな感想が勝手に湧いてきます。

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日食と仏像の光背・キリストの円光
 さて、私たちが普段眼にする太陽は、光球と呼ばれる部分です。太陽はこの周辺に輝くばかりの光を放っていますから、子どもたちがお日様の絵を描くと、太陽を中心に放射状の線を周りにつけるでしょう。このような太陽の姿画を「光線日輪」といい、世界に共通してみられる太陽の描き方だそうです。
 日食では、光球が月に隠され、太陽の周囲に輝くコロナが見えます。このコロナの形状は、太陽磁場の状態によって、光球の周囲を丸く取り囲むようなときもあれば、太陽がまるで鳥の翼を左右に広げているような形(有翼日輪)に見えることもあります。
 このコロナの丸い輝きを見た古代の人は、仏像の作りに「光背」と呼ばれる金色の環状物をお顔周辺の背部につけることになりました。それはクシャン朝のカニシュカ王の時代にはじまり、ササン朝ペルシャを経由して、キリスト教の文化圏にも伝播していきました。キリスト、マリア、12使徒、天使などの像や絵画に描かれる「円光」の起源はなんと日食に見える環状のコロナだったのです(斎藤尚生著『有翼日輪の謎』、中公新書、1982年)。

太陽と民衆の暮らし
 神や信仰の世界だけでなく、民衆の日常生活においても太陽は敬われてきました。太陽にはさまざまな呼び名があります。
 「お日様」は太陽への親しみと敬いがこめられ、「お天道様」は太陽を崇める尊敬語(小松寿雄他編『新明解語源辞典』、三省堂2011年)です。「お天道様に申し訳が立たない」という言い回しには、人間が太陽に照らし出されて自己を省みる心の運びを常としてきた暮らしぶりがうかがえます。
 「日輪」は、文字通り輪のように丸い太陽のことですが、「日輪のごとく君臨する」と使うように、絶対的な偉大さを象徴する含意があります。そういえば、阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」の歌詞にも「♪六甲おろしに颯爽と 蒼天翔ける日輪の♪」(作詞:佐藤惣之助)と勇ましく日輪が登場しています。こちらの方は、「たまには偉大になって欲しい」と願うばかりですが。
 このように偉大な太陽を侮ると、大変な祟りにあうという民話が鳥取県で伝承されています。「湖山長者」のお話です。
どの長者よりも広い田畑と宝物を持っていた、赤坂の長者と呼ばれる者がいました。日暮れまでに終えるはずの田植えが終わりそうにないので、赤坂の長者は沈みゆく太陽に向かって金の扇をふりながら「戻ってくれ」と、夕日を招き返しました。すると、太陽は沈むのをやめて戻ったため、無事に田植えを済ますことができたのですが、この無礼な振る舞いに田圃は翌朝、池に代わり、赤坂の長者は没落させられたというお話です。
(http://www.city.tottori.lg.jp/koyamaike/kg-1/kg-4/kg4-3/kg-4-3-koyamatyoujya.html)

金環日食のドラマへの期待
 日本の広範囲な地域で金環日食を見ることができるのは、平安時代以来の出来事です。これほど珍しい天体現象なのですから、当日は朝寝坊をするだけで後悔しますよ。この日の午前中は臨時の祝日として、日本中の人が安心して日食を観望できるようにするべきとさえ思っています(埼玉大学もこの日の午前中を「一斉休講」にしてくれないかな~)。
 平安時代の金環日食は、源平合戦のさなかに起きました。水島の合戦です。日食のあることを知らなかった源氏の軍勢は、それを知っていた平家の軍勢の前で右往左往となり、この日の勝負は源氏の完敗でした。これが、源平合戦における平家方の唯一の勝ち戦だったそうです(藤井旭著「源平合戦の金環日食」、『天文ガイド』2012年5月号、18-23頁、誠文堂新光社)。
 きっと、この5月21日にも、人それぞれのドラマが訪れるに違いありません。


コメント


確かに先生の言うとおり、太陽は女性であったかもしれません。しかし、さらに昔を見てみるとイザナギとイザナミの件があります。イザナミからイザナギに声をかけた時は身体的不自由が発生し、このあとイザナギからイザナミに話しかけてから生まれた子は神であった。よってこのことから日本はもとより男性優位の社会であったと考えることもできる。よって一概に女性優位であったとは考えられない。


投稿者: CraZy33 | 2012年05月07日 11:13

古代エジプトで太陽暦が使われていたのは
人々は昔から太陽を大切に思っていることが
関係するのかなと思いました。
太陽については様々な言い伝えがあって
鳥取の民話を読んで太陽は大切にしないと
いけないと思いました。
私も金環日食が見たいので休講を希望します。


投稿者: あいう | 2012年05月08日 12:37

先生のブログを読んで、太陽に感謝して生きていた昔の人々の姿勢を改めて感じます。
しかし、少なくとも日本では現代の人々が太陽や自然への感謝の気持ちを持って日々暮らしているとは到底思えません。
現代の環境破壊もそのようなところから起きるのではと感じました。
自分含め、昔の人々の太陽への敬意を見習っていくべきだと思います。

金環日食が見れるのが楽しみです。


投稿者: yama | 2012年05月12日 17:51

太陽に関係するお話はたくさんありますね。
どれだけ人にとって太陽が大切かを改めて感じました。

金環日食たのしみです。
一斉休講、賛成です!


投稿者: ここ | 2012年05月13日 04:07

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
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発行:中央法規
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