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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

災害時における自治体職員の役割

 災害の発生から復興に向けて、行政機関は福祉・保健・医療等の民生関連の業務において、どのような役割を果たすのでしょうか。厚生労働省ホームページには、12種類の図からなる「災害救助法による応急救助の実施概念図」を示しています。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/dl/saigaikyujo5-9.pdf
 これによると、被災住民への直接的支援に最も大きな役割を果たすのは市町村であり、現在、「被災市町村の民生部局の業務量」がピークに達していることがわかります(上のページから特に図8をご参照ください)。

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 被災市町村の職員は、その多くが被災者でもあります。今回の大震災では、職員の中に死者・行方不明者が多数いることに加え、役場建物の全壊または一部損壊に由来して役場の機能不全さえ生じざるを得なかったことに特徴がありました。

 それでも、被災自治体の職員は他の自治体からの応援を受けながら、復興に向けて懸命に取り組んでいます。先の図8によると、被災市町村の基礎的な業務内容は次のようです。

・遺体の取り扱い ・物資の分配 ・避難所管理 ・仮設住宅関係業務
・保健福祉サービスの提供 ・生活福祉資金等の各種資金の貸付・交付

 さいたま市からも、震災発生の直後から、現地の市町村にさまざまな部局の職員を交代で派遣し続けています。この中で先日は、岩手県宮古保健所から山田町への保健師派遣で応援に入ったさいたま市職員ホープのKさんから現地での取り組みについて伺いました。
 その一端をご紹介しましょう。

 まず、さいたま市の派遣チームが担った業務内容の概略を示します。

(1)ミーティングによる業務確認・情報伝達
◇保健所のミーティング
◇災害対策本部ミーティング
◇各避難所リーダーとのやりとり
◇医療チーム・ミーティング
 ここでは、次のような確認作業と情報伝達がやりとりされています。
・医療費の取扱い、介護保険申請に関する指示と確認
・感染症(ノロ・ウィルス、インフルエンザ、破傷風)の拡大防止
・仮設住宅の建設予定
・地元医療機関の診療再開と災害派遣医療チームの縮小・撤退
・避難所のトイレ詰まり、水漏れ、仮設トイレの設置・撤廃
・各避難所の自治会立ち上げ
・避難所におけるゴミ分別の基準づくり

(2)避難所管理
◇各避難所の二酸化炭素濃度の測定と換気指示
◇ノロ・ウィルス、インフルエンザの感染拡大防止のための避難所・トイレの消毒、タオルの供用禁止、トイレ詰まりへの対応、トイレットペーパーの供給、消毒液のチェック
◇小中学校の新年度開始に伴う避難所の移動・再設置、校庭での駐車・発車の注意喚起
◇要介護者、夜間徘徊者、感染症患者への分離部屋の設置
◇避難所被災者の入退院に伴う連絡調整
◇不審者(ボランティアを装う者もいる)の出入り管理
◇NPO・NGOからの支援提供に関するコーディネート
◇被災者による炊き出し体制の確立
◇管理栄養士による避難所炊き出しの献立作りと食材確保
◇各避難所の自治会づくり
◇避難所における要介護者や障害のある人への無理解への対応

(3) 医療と保健福祉サービスの提供
◇災害派遣看護師による避難所の夜間巡回
◇要介護者・感染症患者への看護師の24時間体制づくり(泊まり込み)
◇保健師の避難所における巡回相談・バイタルチェックの実施
◇心のケアチームによる被災者相談
◇避難所における要介護者へのヘルパー派遣の要請
◇避難所における入浴介助
◇小学校避難所で保健師業務の応援に入っていた養護教諭の通常業務への復帰と、それに伴う保健師の追加派遣要請
◇包帯・ガーゼ・各種サイズのオムツの調達と供給
◇血糖値測定キットの調達と貸し出し
◇緊急の入退院に関する情報伝達ルートの確立
◇地域における医療機関情報の一元化
◇精神障害者の服薬・診療への支援と避難所対応
◇避難所で顕在化する高齢者虐待ケースへの対応(保護と家族調整)
◇避難所にあらわれない引きこもり者の地域調査とそれへの対応
◇被災市町村職員の疲労・ストレスへの支援

 このように被災者への自治体職員による支援は、避難所対応を軸に、懸命に展開されていることがわかります。この中では、虐待や引きこもりへの対応が含まれているように、市町村の対応支援が求められる地域住民の困難は、都市部であるか郡部であるかを問わず均質化していることが現代日本の特徴です。

 さて、災害から1ヶ月を過ぎた段階の避難所は、災害からの「ひとまず避難したところ」というステージから「生活をともにするコミュニティ」へと変化していく過渡期に当たります。つまり避難所生活の現局面は、避難所において健康と生活の落ち着きを取り戻すことに課題があります。食事の内容にしても、被災直後の「お握りかパンさえあれば」という段階から、管理栄養士による献立づくりと食材管理が被災者の健康維持に重要なステージに入るのです。

 避難所における「落ち着き」が必要になっている段階であるにも拘らず、テレビ報道などが未だに、芸能人やスポーツ選手の避難所における炊き出しやパフォーマンスを持ち上げていることには違和感を覚えます。このような有名人の取り組みは、子どもたちや高齢者にとってはあるいは有意義な場面になることもあるでしょうが、現在の避難所は、生活再建に向けて深刻で膨大な課題に取り組む被災者の多くにとっては「有難迷惑」になりうる段階に入っていることはわきまえるべきでしょう。テレビは、有名人の訪問に喜ぶ被災者だけを切り取って画にしますが、有難迷惑なために避難所から出て行った人のことは決して報道しない素性をもっています。

 しばらくは仮設住宅への入居までの長い辛抱があり、被災者は大きな制約の下で、就労による収入の確保、子育てや介護等の営みを続けなければなりません。
 仮設住宅への入居が完了すれば、今度は、避難所で培われたコミュニティが解体され、仮設住宅団地ごとのコミュニティづくりがはじまります。この次の段階では、食事を含む暮らしの営みが家族単位(単身者を含む)となり、それぞれの被災家族の生活再建への課題にそれぞれの被災者が本格的に直面することになります。
 ここで、被災によって失った家族(とくに主たる生計維持者の喪失)の有無、住宅ローン残高と住居の再建、事業の借金残高と事業の再建等をめぐり著しい格差が顕在化することになり、再建への悲観と断念から孤独死や自死をたどる被災者が、従来の災害復興ではみられました。
 被災者であるか否かにかかわらず、私たちにはこれらを克服するための行政責任のあり方と国民の社会的連帯を考える課題を共有しています。


コメント


 今回の東日本大地震が起こったとき僕は実家の栃木で大きな揺れを経験しました。そして高校の同級生が仙台市で被災をしました。
 しばらくして避難所にいるとの連絡が入り、少し安心しましたが避難所で支給される食糧は朝と夜の二食分だけとのことでした。仮設トイレなどは設置されていたとのことでしたが臭いなど衛星面がだいぶひどいとのことでした。そんななかでも周りの人と会話をすることで安心することができたと言っていました。
 みんなで助け合い一人一人ができることを精いっぱいやらなければいけないと思います。僕も節電は継続していきます。いち早く日本が元気になることを願って。。。


投稿者: ぐらするーつん | 2011年04月26日 12:13

 先日の講義で、中途半端な気持ちや準備で被災地にボランティアに行く人たちが破傷風などの感染症により、かえって被災地の方々に迷惑をかけてしまうという事を聞き、無理に現地に行くよりも、募金や物資の支援などの方が確実に被災者のためになるのではないかと思えた。
 ボランティアをするならば、それなりの準備と意志が必要だと思う。それでもいいと思うが、募金などでも十分力になれるはずなので、それぞれの人にあった支援の仕方を考えるべきだと思った。


投稿者: Hiro | 2011年04月29日 20:02

 災害時における自治の役割はとても大きいと思います。人の人生さえも左右すると思います。災害によって生じた市民の精神面においても自治によって改善する事もできると思います。家を失ってしまった家族に対して、速急に仮設住宅を用意してあげれば、不安も改善します。さらに短期間で新しい住宅を提供することにより、気持ちの不安定さを消しさることが出来ます。
 災害時においては、精神的に追い詰められて自殺をしてしまう人も少なくありません。そういう点に置いても自治の役割は非常に重要になってくると思います。


投稿者: セカセカ | 2011年06月20日 19:31

 芸能人やスポーツ選手などの著名人の避難所の訪問が多くの被災者にとって迷惑となっていることに驚きました。ただテレビ報道を見ているだけの大多数の人々は私と同じように、被災者はみんな著名人の訪問に喜んでいて、また訪問した著名人に対して尊敬していることでしょう。真実を我々に伝えるためのメディアが偽りの事実を発信していることに憤りを感じてしまいますし、テレビ局にはこれによって何のメリットがあるのか疑問に思いました。
 本題に戻ると、著名人の訪問に多くの被災者が迷惑を受けていることに驚きましたが、確かに落ち着きを取り戻そうとしている現段階ではそうなのかと思いました。そうなるとやはり、今の段階では芸能人やスポーツ選手などの著名人の一番被災者に有効に働く行動は、1円でも多く募金することなのかと思いました。


投稿者: チルボド | 2011年06月23日 00:43

私は福島県いわき市出身であり、今回の大震災の当時もいわきにいました。大震災が起きてすぐに問題となったのは水不足と食糧問題でした。震災から一週間くらい経った日、近くの公園に支援物資として、西日本の地方自治体からパンやおにぎりがトラック1台分届きました。私はこの情報を知人から聞き、ニュース等では一切流れていない情報でした。同じいわき市でも餓死する人間がいるにも関わらず、支援物資はあろうことか大量に余ってしまいました。同じいわき市でも餓死するまで食糧不足している地域があれば、大量に余っている地域もあったのです。
 さいたま市はどうかわかりませんが、私はこの時、いわき市という地方自治体の情報伝達能力の低さに驚きました。震災の影響で機能が低下していたのかも知れません。しかし、こういった事態をあらかじめ予測しておくのが地方自治体だと思います。また、地方自治体間の連携がとれていれば、支援物資が余ることはなかったでしょう。
 地方自治体や国に対する不満は募りましたが、一方でSNSには非常に助かりました。知人同士はもちろんのこと、知らない人からの情報を頼りにすることがありました。信頼性の観点からは若干の不安はありました。しかし、重要なのはこの形式であり、SNSに地方自治体が積極的に参加することが重要であると感じました。SNSは利用者が主に10代~40代であり、十分に情報伝達ができるとは言えませんが、一定の効果があると身をもって感じました。逆に、地方自治体の人間がSNSを通じて各地方のリアルな情報を受け取ることも現代社会においては有効な手段だと思います。地方自治体の情報伝達のあり方は変化するべきだと今回の震災を機に思いました。


投稿者: かさそ | 2011年07月09日 20:48

私は3・11の直後にどうしても用事があり、関東の実家へ帰省しました。
都内は直接被災したわけではないのに、街の人々の様子、空気とでもいいましょうか、とにかく異様な雰囲気でした。
その中で東北地方の様子、というのは想像を絶するものに違いない、今私がこうしてこのコメントを打っている間も多くの方が想像を絶する避難生活を送っています。
社会福祉を学ぶものとして、というよりは一人の市民として震災直後にまず考えたのは、
障害をかかえた方々はどうするのだろうか、ということです。
たとえば、一定規模の都市であれば車椅子対応のトイレもあるでしょう。しかし今回大きなダメージを受けた多くの地域は小規模の街がほとんどです。規模が小さい(障害者の絶対数が少ない)といえどもゼロではないそのニーズが満たされていたのでしょうか。
あるいは、今地震が起こったことがわからない、さらに言えばそのことをこの先も理解することのできない知的障害を持った方々、あるいは認知症の高齢者はどうするのでしょうか。周りの空気の異様さを感じ、それ以上に動揺するだけではないでしょうか。
「早く元通りの生活を」これは全ての被災者の方々が思ってらっしゃることだと思います。
環境の変化に敏感な障害をもった方々、そのご家族、関係施設の職員の方々が従来通り生活できる空間の場を最低限確保すべきだと思います。
そして、考えたくはないですが地震の多い日本において、災害における福祉のあり方についてももっと様々な議論が交わされてほしい、交わしていかなければならないと思います。


投稿者: エトミ | 2011年07月11日 22:46

震災1週間後に被災地にある実家へ行き、ボランティアを経験しましたが、各地からくるボランティアをさまざまな場所に派遣し、指揮する役割をしていた市役所員には混乱が目立っていました。災害時、市町村の職員は重要な役割を担っているのは明らかなので、今回の経験を踏まえ、定期的に訓練や勉強会を行うなどして、災害時の対処について見直してほしいです。


投稿者: オロビアンコ | 2012年01月25日 12:16

 宗澤教授の授業を受けているものです。私も東日本大震の復興として昨年8月石巻市にボランティアとして4泊5日という短い期間でしたが活動を行ってきました。今となっては一年前のことですが、当時とりあげていたメディアの情報とはかけ離れた現実がそこにはあったことを今でも覚えています。現地の活動には市の職員さんや岩手県庁の人々もいました。しかし、当日の作業についての細かいやり取りや、各市町村でどういったボランティアが必要なのか素人の私でもあまりうまくいってないように見えました。今後に活かしていくためにも、災害が起きた時の市町村同士の連携は非常に大切のように思えます。また、私の参加したピースボートの東北復興プロジェクトは一年立った今なおボランティアを募集しています。是非現地にいってできるだけ多くの人に現状を知ってもらいたいと思います。


投稿者: くろまめ | 2012年07月25日 05:23

私が高校3年生のときに震災が起こりました。そのときは授業中でしたが、学校の対応にびっくりしました。学校側の判断は「授業の続行」です。そして、携帯の持ち込み禁止だったので家族と連絡も取れずに不安に思いながら過ごしました。
「どうして避難訓練をやっていたのだろう、何のための避難訓練だったのだろう」と生徒はみんな感じていました。
自治体の緊急時の対策・活動はすばらしいと思います。これが学校にも導入されれば生徒たち、その家族も「落ち着き」をすぐに感じられると思います。


投稿者: まっきー | 2014年01月22日 12:37

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
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発行:中央法規
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