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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

インテグリティ-障害者権利条約第17条 その1

 さいたま市の「ノーマライゼーション条例(仮称)」づくりは、8月3日に中間報告を出し、この9月からは終盤に入りました。折しも埼玉大学放送研究会がFM浦和で1時間枠をもつ「キャンパスラジオ」への出演依頼を頂戴したため、少しでも条例づくりのPRになればと思い、ここでも条例づくりの取り組みをトークしてきました(9月5日放送)。

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FM浦和のスタジオで-埼玉大学放送研究会のスタッフ

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 キャンパスの外で番組づくりに携わる学生たちは、気負いなく、実に活きいきしています(放研のメンバーとは初対面だったので、彼らはキャンパスの中でも活きいきしているのかも知れませんが)。それぞれの所属学部を訊ねてみると、教育学部2名に教養学部と理学部の各1名で、メインパーソナリティにミキサーにとそれぞれが「自分らしさ」を発揮しているように見えました。

 このような場面に立ち会うと、オジサン・オバサンの通弊である「最近の若い人たちは幼い」「いつまでも大人にならない」というようなもの言いはつくづく不当だと感じます。
 そのように中高年が感じてしまうのは、バブル崩壊以降の時代から、若者の活動制限と参加制約(活動=課題や行為の個人による遂行、参加=生活・人生場面への関わり、ともにICF(国際生活機能分類)の定義による)が社会的に拡大したことに起因するものでしょう。私見によれば、これと同様の困難は中高年も共有していますから、「最近のオジサン・オバサンは幼い」と評しても差し支えない現象も決して珍しくありません。

 さて、さいたま市の条例づくりでずっと気になっていながら、個人的には方針を出さないまま今日に至っている点が一つあります。それは、障害者権利条約(2006年12月採択、2008年5月発効)が第17条に謳う「個人のインテグリティの保護」についてです。

 ここにいう「インテグリティ(integrity)」は、実に日本語に訳しづらい。〈日本政府仮訳〉では「健全であること」とありますが、これは殆ど誤訳といっていいでしょう。
 もう一つの〈川島-長瀬仮訳〉では、日本語訳への慎重さを貫いて「インテグリティ(不可侵性)」としています(長瀬修他編著『障害者の権利条約と日本』、241頁、生活書院、2008年)。これは、日本語への訳しづらさを率直に反映した「仮訳」ですが、「外部から損なわれることのないままの完全な状態、全体性」という語意から「不可侵性」とカッコをつけての仮訳にしたものと推察します。

 この「インテグリティ」といういささか難解な言葉について考えあぐねている最中に、それをキーワードの一つとする書物にめぐり合いました。それは、鶴見俊輔著『教育再定義への試み』(岩波現代文庫、2010年)で、本書の「Ⅱ 痛みによる定義 」の「四 自分らしさをつくり、守る」の冒頭には次のようにあります(同書、53頁)。

「『インテグリティ』(integrity)という言葉が私の中に住みついている。それを日本語でどういうのかはよくわからないが、自分らしさという言葉に近い。私自身の体験に戻って言うなら、鬱病は、自分がこの自分らしさを裏切ったという事実に気がついたとき、その自覚に対する反動として起きる。」(著者は、何回かの鬱病体験がある-宗澤注)

この一文は、それだけで十分に障害のある人の「インテグリティ」についての示唆に富んでいます。(次号に続く)


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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

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