さいたま市の「障害者相談支援指針づくり」その1
前回のブログで取り上げた「ドクター・ショッピング」のような行動は、相談支援の領域でもきわめて起こりやすいものです。いやむしろ、障害領域における相談支援サービスの「高度平準化」の達成には、医療サービスよりもはるかに労力と時間をかける必要があるでしょう。
このような問題解決に向けた取り組みの一つが、さいたま市の地域自立支援協議会で昨年度から着手した「障害者相談支援指針づくり」です。その完成は今年の晩秋になる予定です。
写真 さいたま市障害者総合支援センター
地域生活支援に資する相談サービスは、わが国の生活文化に深く錨を下ろした代物ではありません。未だに「相談支援」に関する地域の共通認識さえないというのが実情でしょう。福祉領域の相談の「本家」とされる「ソーシャルワーカー」にしても、介護保険以降は「介護支援専門員(ケアマネジャー)」に「元祖」のような位置づけをさらわれている始末です。
研究者の中には、ソーシャルワーカーとケアマネジャーの役割と機能を機械的に分けて議論する向きや、「委託」相談支援事業者と「指定」相談支援事業者の役割分担・連携等を全国的な施策課題として議論する方もいるようですが、地域の相談をめぐる実情と到達点から言えば、あまりにも安易な議論の運びであり、生産的な議論とはまったく考えていません。
多くの場合、地域生活支援の入口でもある「相談支援」には、両方の役割と機能を求められるのが実情であり、今後の相談支援の発展の中で、これらの役割を区別するかどうかについては、改めて地域ごとの検討が必要とされる課題です。
何よりも、障害者自立支援法の生み出した深刻な問題の一つは、自治体ごとの障害福祉サービスを「液状化」した点にあります。簡単に言えば、自治体ごとのサービスと社会資源の現状は「天地の開き」がみられます。したがって、相談支援事業の発展に向けた見通しの持ち方も、地域ごとの実情にもとづくものでなければ現実的ではありません。
さて、さいたま市の相談支援システムは、支援費支給制度の段階から、行政区支援課と障害者生活支援センター(委託相談支援事業者)の協働業務とし、その拠点には市直営のさいたま市障害者総合支援センターを新設しました(この詳細は、左の拙著『地域に活かす私たちの障害福祉計画』または雑誌『厚生労働』第64巻4号に掲載の拙著「地域からの発想-埼玉県さいたま市」をご参照ください)。このような蓄積と形態を活かして地域における相談支援の発展をはかるために策定しているのがこの「障害者相談支援指針づくり」であり、その主な目的は次のとおりです。
一つは、相談支援事業の高度平準化に向けて、相談機関ごとの仕事の進め方、相談に関する枠組や考え方の相違、そして何よりも相談支援に携わる支援者の力量を平準化する目的です。ここには、サービス調整会議の持ち方についての招集権を含む規定的な指針、共通アセスメントシート、行政区支援課と障害者生活支援センターの連携、医療・保健・福祉・労働・教育等のネットワークづくり等、市内全域における実務的な共通基盤と共通言語を指針として策定するものです。
ただし、この目的を達成するためには実務上の共通基盤・共通言語となる「指針」を土台に据えて、相談支援に携わる職員の研修を強化しなければなりません。ここには、さまざまなタイプの事例の検討と、それと一体となったスーパーバイズが必要不可欠だと考えます。障害領域は、障害種別による困難の現われ、課題解決のための制度領域、そしてライフステージによる生活課題等が広範囲に及びますから、いささか直感的な私見によれば、相談支援サービスの地域全体における「高度平準化」には、最低でも20年ほどの歳月が必要であると考えています。
(次号に続く)
コメント
一人暮らしをするようになり、相談サービスの必要性は痛感します。地域と密接に関わり、質の高い生活を送るには、気軽に相談でき、尚且つ高レベルなアドバイスが望まれます。
現状の「高度平準化」にはかなりの時間を要するようですが、サービスの受け手である私たちがもっと関心を持ち、積極的に国や自治体にアプローチをかけていくことが時間短縮に繋がると考えます。
「相談支援」というのもやはりとても難しい取り組みのように思えます。
ソーシャルワーカーとケアマネジャーの役割を完全に分けてしまったり、各相談支援事業の質を向上しなければいけないし、すべての事業が高度平準化されるまでにどれだけの歳月が必要になりのでしょうか?
途方もないように思えてしまいます。
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