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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

地域社会の一員として2-佐賀県地域共生ステーション その4

(前回からの続き)
 さて四つ目は、地域共生ステーションがさまざまな地域のニーズに柔軟に応えるところであるとしても、それらすべてのニーズを最終的に抱え込もうとするのではなく、多様な社会資源・サービスを含む地域支援システム全体の中で問題解決を志向する運営が大切にされている点です。

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写真1 ぬくもいホーム太陽の樋渡信子さん(左端)

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写真2 ほのぼの長屋全景

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 利用対象を限定することなく、さまざまなニーズに応えようとするところですから、場合によっては、既存の制度サービスが対応していないニーズのある人、既存の制度や事業者から排除されがちな難しい問題を抱えている人、そしてまた既存のサービスになじめない人等が、それぞれ利用者として訪れることは必然です。ここではまず、地域内の「顔見知りの関係」を基礎に「他者の困難に関心を向け合う親密さ」を育みながら、安心できる落ち着いた暮らしを実現するためのサービスを提供していくという地域共生ステーションならではの営みが追求されます。

 それでも、たとえば触法性のある人や医療ケアに対するヘビーニーズのあるような場合、ひとまずは地域共生ステーションで受け止めつつも、福祉事務所を含めた地域諸機関との地域ケア会議を開き、地域全体で支援する体制を整えていく取り組みが重要視されていました。地域支援システムの中には特別養護老人ホームや障害者支援施設も必要であり、それらを含む地域の中に「第2の家」としての地域共生ステーションが輝きを放つのです。
 また、NPO法人たすけあい佐賀で以前に提供されていた産褥期の女性に対する支援サービスのように、行政の施策に昇った時点で、地域共生ステーションが引き受けるニーズではなくなっていったものもあります。この点は、制度サービスにない支援を先駆的に手がけながら、新たな制度を創出していくという「梃子繰り出し」の役割を果たしている点で、本当の意味でのボランタリー精神が維持されているといってよいでしょう。

 五つ目は、リスクに対する心構えの違いです。佐賀の地域共生ステーションでは、昨年起きた群馬県渋川市の「静養ホームたまゆら」火災事件のことが契機となって、消防署直通型の火災報知機の設置が義務づけられ、スプリンクラーについても課題に昇っているところでした。しかし、このような課題への対処にも「顔見知りの関係」の人に災いをもたらしてはならないとするような心遣いを感じます。

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写真3 それぞれの地域共生ステーションに設置される消防署直通型の火災報知機

 たとえば、毎年9月1日の「防災の日」を筆頭に、大規模な学校や施設で実施される防災訓練の光景が見受けられますね。しかし、都市部ではあくまでも訓練に過ぎないというリアリティの欠如からか、参加者にはどことなく気合の入っていない雰囲気があるように思えてなりません。それでいて施設の設置者は、最悪の事態が生じた場合に回避することのできない損害賠償責任等の重みに悩ましい思いをめぐらせながら、火災報知機やスプリンクラーの設置を考慮するのです。これはこれで致し方ない現実でしょうが、被害に遭遇する人間は抽象化され、人間の具体的な姿・形は消失しているように思えます。

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写真4 普段の非常口。出口のあることが一見分からない

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写真5 緊急時には外にすばやく避難できる

 その点、ぬくもいホーム太陽では、消防法による設置義務以外の場所にも非常口を設けていました。認知症の方や知的障害のある方に配慮して、普段は非常口であることがわからないように造作されていますが(写真4)、いざという時には、布団袋の中の布団を外に蹴り出して外に避難しても大きなケガには至らないように工夫してあります(写真5)。民家改修型の地域共生ステーションならではの工夫と言えるでしょう。

 最後に、地域共生ステーションは支援者の専門性について重要な課題を提起していると考えます。「地域社会の一員として」という前提条件を踏まえるからこそ、パターナリズムを乗り越えた「ヨコ・ナナメ」の関係性を機軸にした支援が実施できているように思えます。私の視察した地域共生ステーションの担い手は、長い実戦経験と学習に裏打ちされた庶民の暮らしとその困難に関する深い洞察力をもった方たちであり、佐賀県立コロニーの職員や福祉事務所の生活保護ワーカーを前職にもつ方たちもおられました。それぞれの地域共生ステーションでは、有資格者の職員配置についても必要な配慮をしています。
 つまり、支援者のもつ高い専門性の中に、権威性を排除して利用者との「ヨコ・ナナメ」の関係性を維持・創出する内容が含まれており、それは専門的権威を背後にした「ラポール」や「信頼関係」とは異なるものではないでしょうか。それはまさに「暮らしの場」という親密圏における支援の専門性について、再考を要する課題であると考えます。


コメント


 こんにちは。私は北九州市立大学の学生です。

 前回の記事と今回の記事を読んで、まず地域共生ステーションが提供するサービスの質の高さや幅の広さ、支援者の服装にまで気を遣う視野の広さに驚きました。特に、食事を作っている時の「期待の間」と非常口に関する工夫については、思わず「なるほど」と驚嘆してしまいました。
 専門性が高ければいいのではなく、専門性が高い中でいかに地域住民と同じ目線でそのニーズに応えていくか、ということが重要であると感じました。
 地域共生ステーションのような施設が身近にある場所なら、是非住みたいと思う人も多いと思います。地域の過疎化を防止する意味でも、この施設は非常に意味のあるものだと思います。


投稿者: シマ | 2010年01月03日 23:27

 こんにちは、北九州市立大学で特別講義を受講させて頂いた者です。講義では、福祉の現場で起こっていることを具体的に分りやすく説明して頂きありがとうございました。

 佐賀県地域共生ステーションの報告記事(1~4)を読ませ頂きました。「ヨコ・ナナメ」の関係を大切にした、わがままの言える「第二の家」。とても素晴らしい施設だと感じました。なかなか実現できることではありませんよね。
民間の施設では色々と問題が起きたりもして、例えば家族が入所する場合などでも、なかなか安心してお願いできるところを探すのも難しいと思うのですが、こういう施設もあるのだととても勉強になりました。

 私は、学生の間に自由に使える時間を利用してなにか地域と関わる活動をしたいと考え、大学一年の頃から主に防災関連の活動をしているNPOに所属し活動してきました。その中で、防災に関する知識を高める目的で「防災士」という資格を取得したのですが、防災士の勉強の中でも「ヨコ・ナナメ」の地域関係はとても重要視されていました。
 地域の繋がりが深いほど何か問題が発生した時の対処もスムーズに進み、特に有事の際に不利になる子どもや高齢者、女性や障害をもたれた方との日ごろからのコミュニケーションや情報収集はとても大切なことだと学びました。
 やはり、そうした日常的な積み重ねがいざと言う時の助けになるものなのですね。

 先生のブログを拝見して、自分自身が防災活動を通して学んだことは、福祉の観点からみても大切なことなのだということを感じ、どのような人にとっても人間が生活する上で地域との繋がりというのはかけがえのないとても大切なのだと再認識させられました。
 特に子どもや高齢者や障害をもたれた方など、ハンデを抱える人にとっては地域と共生していくことで、そのハンデを小さくすることができるのだと感じました。

 けれど、地域との共生は難しいもので頭ではわかっていても実行するとなるとなかなか困難なものです。
 今後、佐賀県地域共生ステーションのような施設が増え、福祉を必要としている人たちへの受け皿がしっかりと拡大していくことを願うばかりですが、私自身、家族や自分の将来のためにもこれから福祉の問題にもっと関心を持って生活していきたいと思っています。
 早く、支援の必要な人に必要な支援が届く温かい「福祉の日本」になればいいなと思います。


投稿者: アップルパイ | 2010年01月04日 18:39

 こんにちは  北九州市立大学の学生です。ご講義ありがとうございました。
 佐賀県の共生ステーションのように、地域の方々のニーズに合わせて利用できるシステムや障がいを持ちながら、誰かのお役に立てるという喜びを感じられるような雇用システムは、言うは安し、行うは、よほどきちんと信念を持った方でなければ出来ることではないと感じます。
 北九州にも施設と呼ばれるところは沢山ありますが、このような施設を見たことがありません。また、必要に応じて医療、福祉事務所、諸関係機関との連携も取られており利用する方にとっても安心して利用できる場所ではないでしょうか?これこそノーマライゼーションだと感じます。
 リスクマネジメントの方法についても、さりげない心配りがされており、思わずうなずいてしまいました。介護される方にとってもする方にとって納得の方法ではないでしょうか。今後も佐賀県共生ステーションがモデルになり全国に同様の施設が広がっていってくれることを願ってやみません。
 《必要な支援が必要な人のところに、人が人を支えることが当たり前な社会に》なっていってくれることを願っています。


投稿者: ぷーさん | 2010年01月06日 10:54

 こんにちは。先日は北九大での貴重な講義をありがとうございました。
 佐賀県地域共生ステーションでは、利用者との「ヨコ・タテ」の関係を重要視されている、ということで、利用者の方も人として人とのつながりやぬくもりを感じられているでしょうね。というのも、利用者がまるでモノや動物であるかのように「扱われている」という現状である施設の話を聞いたことがあって、憤りを感じていました。生きている以上おいいしいごはんを食べたい、穏やかに、安心して暮らしたいと思うのは当然のことだと思います。その当たり前のニーズに応えられようでなければ施設として意味を持たないと思います。
 「地域共生ステーション」という名の通り、顔見知りがいて、それまで生活してきた社会から切り離されることない場所だと思います。これまで「施設に入所する」ことが孤独感を生むものだと思っていたので、専門性の高い支援者の確保と地域や人との繋がりを維持したままのサービスが各地域に設置することの実現が国全体の動きになればと思います。


投稿者: ひまわりの種 | 2010年01月13日 11:55

 地域共生ステーションのように、何かあった時に公的機関や大資本に頼るのではなくて、自分たちでなんとなくなんとかしてしまう取り組みには大変興味があります。
 サービスの対象を決めてしまわなくて柔軟に対応してくれる施設が近所にあると、自分の将来を想像しても少しだけ明るい気持ちになれますね。

 私は仕事で救急車に乗っていたのですが、仕事の中で出会った独居老人には、体が悪くて一人では生活できないのに気性が荒くて家族が近寄らなくて、近所の人の援助でなんとか生活している人がいました。
 そのような人達が「ぬくもり」や「ほのぼの」と銘打たれた施設に自ら頼るのは難しいと思います。
 かく言う私もちょっと面映い感じです。
 明るく暖かでふわふわした雰囲気はとても素晴らしいと思いますが、もう少し硬質な雰囲気を求めてしまう人達が生きられる場所があればなぁと、へそ曲がりな私は思ってしまいました。


投稿者: なかむら | 2010年01月15日 22:38

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
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