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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

住まうことは生きること 間取り編

 既存の一般住宅とグループホーム・ケアホーム専用住宅(以下、「ホーム専用住宅」と略)では、間取りがまったく異なります(図1、2参照。図1はホーム専用住宅のものですが、原画自体が不鮮明なため、間取りの構成をご理解戴ければと思います)。

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図1 あるホームの間取り

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図2 一般住宅の間取り例

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 今日の一般住宅の間取りは、核家族世帯と二世代家族世帯をそれぞれ想定しているものがありますが、いずれも子ども部屋・夫婦の寝室・高齢者向きの部屋・キッチンと整容のスペースというように、ライフステージとジェンダーによる間取りがそれぞれの広さに分かれて構成されています。
 それに対してホーム専用住宅は、それぞれの居室が均等に間取りされつつ、リビング等の交わるスペースは一般住宅とほぼ同様の構成になっています。居室は均等に間取りされていますが、もちろん住まい方はそれぞれです。
 これらの相違点は、一つ屋根の下でともに暮らす人たちの「生きる態様」と「親密さの交わり方」の相違に由来するものではないでしょうか。

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写真3、4  均等な間取りの居室にもそれぞれの住まい方がある

 西川祐子著『住まいと家族をめぐる物語-男の家、女の家、性別のない家』(集英社新書、2004年)は、わが国における近代家族と住まいの変容について、住宅政策と住宅産業との関連をも視野に入れて考察した労作です。少なくとも、近世から現代までの家族と住まいを射程に収める内容を擁しています。本書は、グループホームやケアホームのように、暮らしから住まいのあり方を考える向きには、ぜひともお読みいただきたい書の一つです。

 前回のブログに記したように、料理をするためだけならシステムキッチンは不要とも思えるのに、何故、世の奥さま方がこれにこだわるのか? この疑問に対しても、「男は外で働き、女は家を守る」という近代家父長制が広まった1920年代から戦後の高度経済成長期において、専業主婦が抱く「社会からの疎外感と住まいに閉じ込められる閉塞感」に由来するものだったのかと、納得させられるものがあります。
 その他にも、「水洗式の男女両用便器は、機能性重視と空間節約をめざした公団住宅から一般化した」との指摘があり、一般住宅から男子小用の「朝顔」が消失した歴史的事情も、本書から初めて知りました。

 そして、前近代家父長制に対応する住まいが「いろり端のある家-男の家」であり、近代家父長制に対応する住まいの典型が「公団住宅にはじまる女の家」であるとの指摘にあるように、一つ屋根の下で家族がどのように住まうかは、それぞれの家族がどのように生きているかを表すものである点が、本書の真骨頂でしょうか。

 そして、現在の新しい住まいのあり方である「ワンルームマンション」や「ルームシェア」に着目し、西川氏は次のように指摘します。

 「血縁家族の時代には、先祖を祀る祭儀が義務であり、ご先祖の物語が血縁者によって引き継がれていた。先祖の記憶の継承と他人の記憶の継承は違う。他人の記憶の継承は、一団となる共同体的な集まり方ではない、違った者同志が共存するあり方にヒントをくれる。ルームシェアが、他者と空間を分けあうことだとすれば、他者の記憶の継承は時間を分け合うことであろう。」(前掲書、203頁)

 ここから、障害のある人のグループホーム・ケアホームのあり方を私なりに考えると、次のようになるでしょう。
 障害のある人のグループホーム・ケアホームは、血縁による家族が共同体的に住まうところと異なり、地域に暮らす異なる者同士が、時空間と喜怒哀楽を分ち合うことによって、慈しみあい育みあう住まいである。それは、従来型の家族の住まいではなく、新しい親密圏の創造である。

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写真5 血縁のない異なる者同士が育む親密圏


コメント


 先日は大学での講義ありがとうございました。
 人の数だけ住まいの形はあり、家族の形がある。それぞれの親密圏を作るため、住まいを選ぶことはとても重要なことです。それは他人同士が住まいを共にすることにおいても同じことが言えます。
 先生が書かれているように、グループホームなどでは、家族間とはまた違う親密圏がその住まいで創造され、居住者は自由で平等であり、お互いに信頼関係が存在する暮らしを送ろうとしています。しかし、現在の日本にそのような場はどれほどあるのでしょうか。ノーマライゼーションという言葉が活発に叫ばれる中、施設の見直しが進んでいることは感じますが、障害者や高齢者当人の気持ちに追いついていないのが現状だと思います。すべての人間が安心して暮らせる多種多様な住まいの形が充実することを願います。


投稿者: 0530ST | 2010年01月15日 00:07

前近代家父長制、近代家父長制の住まいから、どんどん変化してきていることが最も興味深かったです。今後はもっと核家族化が進んで、住まいが若者と高齢者、どんどん離れていくのかなと思うと、悲しくなりました。しかし、時代の流れにあったそれぞれの空間を築いていくこと、空間が核家族化により離れてしまっても、高齢者は若者に、若者は高齢者に、など他者に対する配慮を忘れないよう心がけることが大切だと感じました。システムキッチンの記事も読ませていただきましたが、家族のあり方については今後一層学んでいきたいと興味を持ちました。


投稿者: みかん | 2012年07月13日 17:11

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

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発行:中央法規
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