住まうとは生きること システムキッチン編
障害のある人のグループホーム・ケアホーム(以下、「ホーム」と略)を見学してまわると、既存の住居を借り上げたものよりも、ホーム専用に新築した物件に、幾多の点でアドバンテージのあることが分かります。
写真1と2は、ホーム専用住宅の階段と洗面所です。階段の蹴上げは低く設計され、場合によってはホーム・エレベータをつけたところもありますから、肢体不自由に由来する移動困難や車椅子利用者にも、屋内の垂直移動に対応しやすい造りとなっています。
洗面台が2個並列されているのは、洗面や整容に必要な手間と時間の個人差を考慮して、洗面に待ち時間を作らないための工夫です。
写真1 ホーム専用住宅の階段―蹴上げが低い
写真2 同洗面所
このようにホーム専用住宅を見学してみると、私にはいくつかの気づきがありました。今回はその一つとして、システムキッチンをめぐる話題を取り上げます。昨今の住宅は、システムキッチンがつきものとなって売られています。写真3は、住宅展示場によくあるようなシステムキッチンの一例です。
写真3 現代のシステムキッチン―はたして料理はおいしくなるのか?
私には30年以上の料理歴がありますが、システムキッチンの必要性は未だにまったく分かりません。家庭料理のほとんどは、流しとガスグリルさえあれば事足りるからです。たまにグラタンや鳥の丸焼きを作ることもありますが、それはオーブンレンジがあればいいだけのこと。現代の家族は少人数化が進んでいますから、システムキッチンにつきものの「全自動食器洗い機」なんて愚の骨頂です。2~3人分の食器を洗うには、エコと手間の双方の観点から、圧倒的に手洗いが優れています。
しかも、このシステムキッチンは結構なお値段がしますね。私の友人に注文住宅の設計を手がける一級建築士がいるのですが、彼に言わせると、「システムキッチンはドル箱」だと言い切ります。
「住宅の設計で注文を聞くとき、台所まわりだけはカミサンの独断場なのさ。とくに専業主婦だとここを先途と自己主張する。旦那さんが一緒に来ていたとしても、ここだけはカミサンの言いなりで設計が決まりがちなんだ」
「キッチンまわりの住宅設備は、ピンキリの値段。最低限度に抑えると50万円くらいでも済むのだが、“システムキッチン”というやつは欲を一つ張るたびに50万円単位で金額がはね上がっていく。機能テンコ盛りで、見栄えも良くしたら普通に300万円くらいにはなる。もちろん、あくどい営業だったら、“奥さまの夢”を幻想的なまでに膨らませて、さらに数百万円吊り上げることもできるところだから、営業的にはおいしいところさ」
「でもね、長年設計の仕事をしているけれども、システムキッチンになったからといって、家の料理がおいしくなったという話だけは聞いたことがないんだよ」
ごもっともな話です。プロの料理人の世界であれば、調理場の道具や設備は決定的に重要でしょうが、家庭料理では料理をする人の調理能力のほうが圧倒的に重要なファクターです。しかも、小規模家族の一回の食事に使った食器だけでは、全自動食器洗い機の中はまだスカスカですから、食器がたまっていっぱいの状態になるまで洗わないという悪しき習慣をつけてしまった友人のカミサンがいて、「全自動食器洗い機で、まるで細菌を培養しているようなありさまなんだよ」とその友人はこぼします。
ところが、ホーム専用住宅を見学し、私は長年の“システムキッチン観”の変更を余儀なくされました。
写真4 システムキッチンで弾むコミュニケーション
まず、システムキッチンは調理の最中にも支援者が対面で見守りと注意を向けることができ、コミュニケーションができることです。生活時間の食い違いの大きい現代の家族と異なる点が、システムキッチン本来の役割を発揮しているようです。
次に、ホームでは、支援者の労力と時間は直接的な支援に集中できることにこしたことはありませんから、食器洗いなどは「全自動食器洗い機」に任せてしまうことに合理性があります。衛生面でもアドバンテージがあるでしょう。
第三に、支援者がシステムキッチンの収納性の高さを活用することによって、リビングとつながるキッチンスペースを、障害物のない空間に管理することができる点です。
このように考えてくると、現代の住宅設備は万人の利用に資する設計(これも“ユニバーサルデザイン”といえるでしょう)となっていますから、障害のある人やさまざまな人たちがルーム・シェアするような共同住居には、システムキッチンはまさに必要不可欠な設備だということができます。
それでも、一般家庭にはいらない…(ガリレオ風の個人的つぶやき)。
コメント
うちは古いマンションのため、狭い流しとガス台しかないシンプルなつくりですが、特に調理で困ったことはありません。
友人宅の新築マンションは対面式のシステムキッチンですが、付属の食洗機もオーブンも使ったことがないそうです。
でも、お互い目の離せない小さい子どもがいるので、調理中でも子どもの様子が見えること、入り口を柵で塞いでしまえばキッチンに入れないこと等々システムキッチンの便利さはちょっとうらやましい…と思うこともあります。
十数年前になりますが、研究室で就職試験に臨むゼミ生のために、先生が敵に勝つということでステーキととんかつを作ってくださったことを懐かしく思い出すことがあります。
たしか研究室には小さなガスコンロと流ししかなかったような…料理人(先生)の力量と、その時の思い出が、今となっても「あの時食べたのはおいしかったなぁ」と思わせてくれるのでしょうね。
これからもブログ楽しみにしております。
私は北九大の学生です。先日は大学での講義ありがとうございました。このブログのテーマが講義の内容と似ていたので書き込みをしました。
対面式(システム)キッチンは常にコミュニケーションがはかれるから良い、という意見をよく耳にしますが、それがユニバーサルデザインにも通じるものだとは考えてもみませんでした。さらに、一般家庭においては必要性をほとんど感じない食洗機やIHクッキングヒーターも、ホームでは、皿洗いに割いていた時間をホーム居住者との直接的コミュニケーションに使うといった経費削減効果や、直接火を扱わないことでの事故防止効果を期待できるため、システムキッチンはとても有用なものではないかと思いました。システムキッチンは価格設定が高めのようですが、これが積極的にホームに導入されれば、よりよい福祉を生むことができるのではないかと思いました。
先日は楽しく、自分自身の身になる講義をありがとうございました。
私の家は築40年の木造平屋建て住宅で今、室温8度の部屋の中でこたつに入りコメントを書いています(人間らしい生活なのかな?)。
私は発達障がいこそ持っていますが(調理師免許も持っていますが)、先生のおっしゃるように普通の家庭にはガスコンロ二つと流しがあれば事足りると思います。
しかし、障がいを持つ方とその支援者に取ってはシステムキッチンというのも便利なのかもしれません。
私の友人に最近家を建てた友人がいるのですが先生のブログにも書いている通り、キッチンだけで500万円くらい掛かったそうです。
水回りもガス周りも広く快適に作られており(田舎ですし)その友人の家のキッチンならばホーム用にも使えそうな感じです。
しかし、これから高齢化が進みいわゆる団地族(北九州市にも沢山あります)の世代も高齢化し介護が必要な現状があります。
そのキッチンを含めた住居施設の改善をを速やかにどうやって解決していくか、これは私たち福祉を学ぶものだけではなく社会全体にとってもとても身近な問題だと考えます。
私自身も社会人学生であり親もそろそろ高齢となってきましたので、私自身も身近な問題だと考えコメントさせていただきました。
福祉の立場からみると、システムキッチンは必要であるということに気付かされました。さまざまな人達が喜べる、ということを考えるのはなかなか難しいことだと思います。普段からこういうことを意識していけると良いなぁ、と思いました。
こんにちは。
このブログを拝見して、私たちが私たちの生活を便利に、楽にするために開発したシステムキッチンはユニバーサルデザインにもつながるということが分かりました。
また、個人的なことかつ不謹慎なことかもしれませんが、最近左足を靱帯損傷してしまい、2週間のギブス生活を送っています。
そこで感じるのは、体のどこかが不自由だと、生活するのがとても不便な社会だということでした(多少大げさですが…)。
朝、電車に乗ること、バスに乗ること、学校で教室を移動すること…
健常者なら問題なく生活できる社会が築かれていることだと思いますが、障害をもつ人にとっては生活しにくい社会なのではないか、と自分の足の怪我を通し、感じました。
なるほど。言われてみるとシステムキッチンはユニバーサルデザインに叶ったものなんだなと気づきました。あと僕はキッチンの掃除が嫌いなので、掃除が簡単そうなシステムキッチンは僕にとっては魅力的です(笑)。 ただ、全自動食器洗い機は福祉施設などにはあってもいいと思いますが、環境破壊のことを考えると一般家庭には普及してほしくないですね。
話をユニバーサルデザインのことに戻しますが、実は、僕は中学のときから左膝が悪く、痛みがひどいときは左足を引きずりながら歩くこともあります。
こういう時一番つらいのが階段。左足に体重をのせると激痛が走るので、慎重に一段ずつ上るのですが、階段の蹴り上げが高かったり、手すりがなかったりすると本当に大変です。
その点、写真1の階段はよく考えられて造ってあると思います。時々階段で大変な思いをしているので、こういう施設を見るとなぜか温かい気持ちになります。この施設に関わってる多くの人のやさしさを感じるというかなんというか、、、
階段だけでなく、こういった温かく優しいユニバーサルデザインがこれから社会全体に広がっていくとよいですね。
グループホームのように様々な障害を持つ人が集まる場所では、洗面所ひとつとっても2つつけるといった工夫が必要であるほどであった。それを考えると街中というのは健常者にとって使いやすいものが多く、障害者にとってはとても不便であることに気づかされました。
家族の誰かに障害が出てしまう、というのはどんな家庭でもありえることなので、健常者の家庭も階段を広く取る、段差をなくすなどのユニバーサルデザインにすべきであると思いました。
私の父は生まれつき足が不自由なので私の実家はそのような障害者にとって暮らしやすいはずです。
しかし父が他の家に行くとそのたびに不自由さをいつも以上に感じて帰ってくるようでした。
このような経験から私はどの家にもバリアフリーな環境が必要だと思っています。
福祉の観点からシステムキッチンを見ることに、とても驚きました。
障害のある方の住みやすい社会作りのためには、公共交通機関などの整備も必要ですが、住まい作りの面からのアプローチも大切だと気づかされました。
そんな社会の実現が少しでも早まることに、自分が貢献できればいいと思います。
自分の家のキッチンに特に不便を感じたことはありませんが、福祉の視点から考えると必要なんだなあと思いました。
自分に子供ができたときのことを考えて、家を建てるときに役立てようと思いました。
グループホームのようなたくさんの人が集まるところではさまざまな創意工夫が施された施設があるのだとわかりました。
私の母もグループホームのヘルパーをしており、足の悪い祖父もいるのでこのような話はとても身近なものにかんじました。
こんにちは。
ブログを見て、話題のシステムキッチンがユニバーサルデザインとつながっていることに驚きました。ただ、システムキッチンを便利でオシャレなものとしか考えていなかった私は、障害者の方の視点に立って物事を見てみることの大切さに改めて気づきました。
私の近所にある図書館は比較的最近できたものであり、入口だけでなく、トイレや読書スペースなどの細かなところにまでユニバーサルデザインが設けられています。しかし、駅にはエレベーターはあるものの、まだ十分と思えるほどの対応がなされていません。
住宅の家にこんなにも障害者の方にとって優しい工夫がなされているのなら、もっと公共の場にもユニバーサルデザインが広まって欲しいと思いました。
「システムキッチンはドル箱」
宗澤先生の友人のお話を読むと本当に「ごもっとも」な話です。
それに加えて、家を買う、というのは人生の中でも大きな買い物で、金額的にも何千万円の世界だと思います。そうなると人間の心理的に「どうせ買うならいいものを」とか「何千万円のなかの五十万円~三百万円くらい」などと思ってしまうのではないでしょうか。将来家を買う際には気を付けようと思います・・・。
しかしそんなシステムキッチンもユニバーサルデザインの中の一つとしての面も持ち合わせているようですね。障害のある人たちの住宅では必要とされ、大活躍中なのでしょう。
でも確かに一般家庭には必要ありませんね・・・。
一人暮らしをしている私にとって、宗澤先生の言うとおり、キッチンにはコンロと流しがあれば十分であるというのは深くうなずけるものでした。
今思えば実家にあるシステムキッチンというのも、あまりつかいこなせていない部分も多いとも思います。
でも、システムキッチンがあることによってリビングとキッチンがつながれて、コミュニケーションできるというホーム専用住宅と同じような構造があるのもまた事実です。
福祉の世界ではそれがさらに重要な意味を持つということでしょう。お金がかかったとしても、時代が進むにつれてコミュニケーションがなくなっているという面をこういったシステムキッチンという技術でつなぐというのも面白いなと感じました。
自分は男ですが料理も好きです。システムキッチンは将来の夢のひとつでもあります。しかし、宗澤先生のこの記事を読んで納得いたしました。(それでも欲しいのですが)
今回驚いたことはシステムキッチンがユニバーサルデザインの面ももっているということです。人と人とのコミュニケーションが少なくなっている現代において、また福祉の世界において、システムキッチンが従来と違う見方から必要とされることに非常に興味を持ちました。
住まい作りの中でこのようなユニバーサルデザインの側面ももったモノが増えていったらおもしろいと感じました。
この記事を読んでシステムキッチンにバリアフリー性につながる特徴があることに気づかされました。いままでそのように考えたことはなくたしかにそうだなと感じました。よく考えればシステムキッチンの収納性によるスペースの確保、また天井からスライドする棚なども負担をかけずにすみます。
最近のIHなどもガスコンロよりも非常に安全に料理をすることができると思います。さらにホームにおいては良いコミュニケーションの場としても成立しその機能は本来のシステムキッチンの狙いよりもはるかに凌駕していると感じました。近年のバリアフリーを重要視する流れ似合わせてこの考え方が広がればシステムキッチンの需要が上がりそうですね(笑)。
こんにちは。我家のシステムキッチン歴は20年以上です。確かにシステムキッチンを導入したからといって、美味しい料理に変化することは無いでしょう。但し、整理整頓しやすく掃除もラクになるという利点があります。時間差で食事をしている過程にとって各自が片付けても、同じ場所に整理整頓することが出来ます。これは、企業の在庫管理に似ています。違った視点で見れば、もし我家にヘルパーさんがこられた時にも分かりやすいのではないかと思います。
なぜ、このテーマに関心を持ったかというと、最近父が背骨を圧迫骨折してしまったからです。どうやら、オイルヒーターを屋外の小屋に運んだことが原因らしく4箇所骨折しました。
それからというもの我家の生活は一変しました。会談の一段さえ足の上がらないために、手すりや補助器具更に、風呂の大改装とかなりの出費になりました。多くの電化製品を導入し節電の世相とは相反する行為になりましたが、自宅で父が心地よく家族と生活するには必要でした。
自分が経験して改めてイメージ出来たというのは恥ずかしいことではありますが、高齢者や障害者が自宅で生活するということは、多くの最新家電を導入したキッチンやバス・トイレが必要になるのだということが分かりました。
おかげさまで、父自身も快適だとは思いますが介護する母や私の負担が軽くなり精神的にもゆとりを持つことが出来ました。
我家はなんとか自費での改装ができましたが、もっと行政の援助などあれば多くの方が自宅で生活できる事が可能になるのではないかと痛感しました。
工学部で建築について学んでいるので興味を持ち読みました。私はシステムキッチンって聞いただけですごい便利なものだと思っていましたが、そういうわけでもないみたいですね。1人暮らしをしていて思うのは家族分の料理を作るのは大変ということです。なのでシステムキッチンがあれば便利だと思ったのですが、考えさせられました。しかしバリアフリーの考えは素晴らしい観点だと思いました。
システムキッチンがどういう役割をしているか、バリアフリーの目線から考えたことはありませんでした。現代の家に多く使われているシステムが、体の不自由な人でも使えるというのはとても良いことだと思います。どういう構造が体の不自由な人にとって不便だと感じるのか、なかなかわかりにくいものだと思います。だから皆がそういったことを共有できるような機会があったらいいなと感じました。
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