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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

それぞれの人生をそれぞれの輝きに

 4月は新年度のはじまり。それぞれの人生の悲喜こもごもが交錯する時節です。昔から日本では、精神障害の発症率の高い季節として知られています。9月を年度の節目とする欧米は、9月が発症率の高い時期といわれていますから、ライフコースの分岐点となる年度の変わり目は、人間の心身に変調をきたしやすい状況があるのでしょう。

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新しい日の早朝―蒼い空はすべての人に開かれている

 希望を胸に抱いて新しいステージに進んだ人、想い半ばに戸惑いながら次のステージに入った人、就職活動の挫折や「派遣切り」「雇い止め」等によって「浪人」を余儀なくされた人… 胸に去来するものや身の置き所はさまざまでしょうが、それぞれの人生はそれぞれの輝きに通じる道が必ずあることには確信をもっていただきたいと思います。

 福祉領域の仕事の多くは、同じように人間を相手とする教育や医療の仕事と比較すると、枠組や支援の運びに不定形さを余儀なくされる特質があると主張してきました。暮らしの中の人間を直接相手にするということは、人間をある面から切り取ったり、断片化できない難しさがつきまといます。仮に状況把握のために、ある尺度や指標からアセスメントする必要があるとしても、それぞれの人の生活史や今の暮らしの文脈の中でトータルにとらえ返すという作業が不可欠となります。ここでは支援者に、必ず割り切れなさも残るはずです。

 相談室の中で行なわれる相談支援に限れば、枠組みのある面接となりえますが、家庭訪問での面接となると事態は変わります。ましてや、居宅に出向いて提供する支援サービスやグループホームの中での支援に典型的なように、公共圏にいる職業的支援者が利用者の親密圏における私的生活の充実をはかる仕事には、予期しない事態や個別性への配慮に特別の緊張と困難を伴うことがあります。ここから、支援者サイドには仕事に伴う疲労への対処に特別の注意を払う必要があります。
 この点を軽視すれば、注意力の低下、散漫なコミュニケーション、無理な姿勢の介護による腰痛等をきたし、有効な支援ができない事態に陥ります。いうなれば、母子家庭のお母さんたちが、生活費を稼ぐため長時間労働と子育てとを両立させなければならない難しさと相通じるような事態に陥るのです。疲れのために子育てがままならないというように。
 余暇と休息を保障しない産業は、働く人たちを「使い捨て」にしてしまう経営を恒常化させるため、結局は産業そのものの堕落と衰退を招来すると主張したのは、20世紀の福祉に関する思想の土台をつくりあげたウェッブ夫妻でした。

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休息のとり方も学ぶこと―しっかりと働くために、自分の生活の質を高めるために

 新しく福祉の職場に入る皆さんには、仕事を覚え、大いに羽ばたいていただきたいと願っています。しかしそのためには、同時に、この仕事の疲労の特質にふさわしい休息をとることが必要であることも決して忘れないでください。日本の職場は、労働の密度と効率を上げる方向で新人教育をする傾向が強すぎはしませんか? それぞれの福祉職場の本当の成熟度は、この仕事の特質にふさわしい休息のとり方や生活の楽しみ方についても、適切なアドバイスのできる上司や先輩がいることだと考えています。

 職業人の年度末から年度初めの変わり目は、実に慌しい。その最中に、自らの余暇と休息を割いてまで、さいたま市の相談支援・就労支援等の取り組みを雑誌『厚生労働』4月号の「地域からの発想」に拙文をまとめました。お目通りいただければ幸いです。
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コメント


 毎回楽しみに読ませていただいております。
 宗澤さんの取り上げられる話題の幅広さにいつも刺激され、自分の勉強不足を反省しつつ、楽しみにさせていただいております。
 団塊の世代の大量退職もあってか、我が職場にも10年強ぶりの新人が入ってきました。労働の密度や効率性がますますクローズアップされがちな職場にありながらも、共にいい仕事を長く続けていくためにも「休息のとり方や生活の楽しみ方」についてもフォローできるような先輩でありたいと心新たにさせていただきました。『厚生労働』もぜひ読ませていただきたいと思います。
 新年度、新入生を迎えてお忙しいと存じますがどうぞご自愛ください。また、ブログを楽しみにさせていただきます。


投稿者: 缶コーヒー | 2009年04月02日 20:12

 宗澤さんのプロフィールを読ませてもらいました。機会があれば、ある場所で少し話を聞かせて下さい。


投稿者: 41239 | 2009年04月03日 15:08

 いつも楽しみに読ませて頂いております。
 バタバタと新年度を迎えましたが、私の職場ではスタッフの半分が新しい方に替わり、仕事を教えながら日常業務をこなさなければならないため、新しい方も大変でしょうが、残された者もかなりしんどい状況です。
 そのうえ、花粉症の私にとっては、毎年この季節は最悪です。いつも以上に、オフの時間の心身の休息とリフレッシュに心がけたいと思います。


投稿者: まーら | 2009年04月04日 22:05

 宗澤さんの授業でも聞いてみようかと思って、埼玉大学のサイトで担当されている授業を検索したら、卒論指導の他はたった一つしか担当されていないのですね。
 どうしてなのでしょうか。職場で嫌がらせでもされているのですか? 心配になりました。


投稿者: 曾良珏造 | 2009年04月21日 21:45

 曾良さん、ご心配有難うございます。検索の方法をお間違えになっただけですよ。


投稿者: 宗澤忠雄 | 2009年04月24日 21:34

 空の画像とても和みます。
 4月は別れと出会いが一度にきて、環境も大きく変わり、自分を見失ってしまいそうな感覚を味わいました。精神障害の発症率が高い季節というのもわかる気がします。
 たくさんの人と関わって、よい人間関係を築いていきたいと思っています。


投稿者: sum | 2009年05月12日 23:35

 福祉の現場で働く方々に密着したレポートなどがテレビニュースの特集として取り上げられているのを自分も見ます。
 朝早くから夜遅くまで少ない人員をフルで稼動しながらの仕事の様子を見ると、とても長く続けられるような楽な仕事ではないと思ってしまいます。
 しかし、現場の職員の方々は頑張っておられます。そして、施設以外でも介護などに追われている方もたくさんおられます。環境問題の話ではないですが、「持続可能な」介護のためには介護や福祉の仕事をされている方に対するケアや支援も重要だと思いました。
 記事の文章に書いておられるように十分な休息やアドバイスをしてもらえる環境があってしかるべきだと思います。そのことを考えると地域とのつながりといったものがその環境づくりに大いに効果を発揮するような気がします。


投稿者: オールラウンド | 2010年07月07日 01:02

 福祉に関して勉強している私にとって非常に興味深い記事でした。私は将来、福祉関係の職場に入りたいと思っています。どのような仕事に就くとしても、必ず人間を相手にしなければならないので、疲労が出れば相手にも影響を及ぼしてしまうのだと気付かされました。疲れによる不適切な支援を行うことのないように気をつけようと思います。
 相手が人間だからこそ、特定の枠や尺度に当てはまることは決してない。一人ひとりが異なる特質をもっているため、支援者側の人間は大変な苦労を強いられるのだろうと思います。その苦労に伴う疲労をどのように対処するか、ということが今後私が福祉の勉強を進める上での1つの課題となりました。
 また、職場においても疲労回復のための時間がしっかりと確保できるような環境作りをしていきたいと思います。


投稿者: 空 | 2011年01月16日 17:40

先生のこのブログで「それぞれの人生はそれぞれの輝きを通じる道が必ずある」に感動した。「4月は新年度のはじまり」、特に2009年の4月は、私の人生のはじまりだと言える。自分は中国の大学を中退し、親、家族、友達から離れて、ひとりで日本に留学しに来た。あの時の自分は本当に明日どうなるのか分からなくて、ただ寂しさを感じて、生き甲斐なんか言うまでもなかった、かなりの落ち込んでいる状態だった。明日への希望を胸に抱いて進むなど分かっているが実践するのはなかなか出来ない。
状態変わったのは、老人ホームでのバイトのきっかけだ。看護士じゃなくても、毎度あそこのおばあちゃん、おじいちゃんたちと喋ると自分はなんか必要とされたと気がした。周りの子どもたちと遊ぶのも本当に楽しかった。みんなの笑顔を見て、自分も救われたそうだ。輝いてないが、やっと歩める道にたどり着いたと思った。将来も自分見たい人に何かのアドバイスなどできるように頑張ると思っていた。だから、進学の時、埼玉大学の教育学部を選んだ。将来、教師の道で歩けるように頑張ります。


投稿者: seven | 2012年01月06日 16:52

4月になるとなぜかわくわくするものです。きっと周囲の雰囲気に感化されているせいだと思いますが。新年度が春から始まるという日本の制度はすてきだと思います。桜の咲く様子を見てまた春が来たなと感じます。一部の流れでは欧米にあわせ9月スタートが計画されています。ユニバーサルにすることも確かに現代的ともいえますが、私は春から始まる日本が好きです。4月に持っていたやる気と気持ち、しかし5月を迎えるころには五月病が待ち受けており停滞気味になってしまう人も多くいます。日本ならではなのでしょうか。どんな人にも休息は必要です。特にゴールデンウィーク過ぎから夏までの休日の無さは明らかで、それがつまづく原因ともなっています。勤勉が日本の良さとも言いますが、限界を越えてまで頑張り続けることは間違っていると思います。一人ではつらくても、支え合える人がいるとがんばれる。人を一人にしない社会にしていきたいです。


投稿者: 栗 | 2012年06月14日 13:30

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
定価:¥3,150(税込)
発行:中央法規
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