スワンベーカリー北浦和店(2)
では、この美味しくて豊富な種類の焼き立てパンは、どのようにして作られるのでしょうか?
まず、町のパン屋さんの食味はパン生地が命です。そこで私が抱いた疑問は、スワンベーカリーのパンがタカキベーカリーのアンデルセンから供給される冷凍生地を使っていることにありました。さまざまな種類のパンを実際に味わってみると、パンごとに食感・風味・表面の焼きあがり方が異なります。このからくりをうかがってみると、パンの種類ごとに特定のパン生地・食材(調理パン・菓子パン用)・レシピがアンデルセンから提供されるそうです。つまり、パンの種類ごとに最適化された品質のパン生地が、食材・レシピとセットにされてアンデルセンから提供される仕組みです。
このシステムのアドバンテージは、本格的で豊富な種類のパンを障害のある人が作ることを可能にした点にあります。
それでも、パンごとにレシピは異なりますからパン作りの作業の実際は複雑で、それをどのようにすすめるのかが次の疑問です。最初の画像にご紹介したTさんは、スワンベーカリーに勤めて2年を超えるベテランで、販売のほか調理場で揚げ物を担当されています。揚げ物の手順は、揚げ物の種類によって異なる調理時間(たとえば、コロッケパンに使うコロッケなら油に浸す時間は「8分30秒」というように)と、その日の売れ行きによって変化する揚げ物の個数を指示書で確認してから、Tさんは仕事にとりかかります。
パンの種類ごとに異なるレシピ―調理場に貼られた指示表
それだけではありません。Tさんはコロッケを揚げ油に投入すると、すぐさまトレイの洗浄など他の仕事にとりかかり、揚げ上がりまでの時間を無駄にするようなことはありません。売場の担当者は、お客さんが来るたびに心のこもったもてなしの様に挨拶をしています(断じてマニュアルに従っただけの「強迫的な笑顔」ではありません)。このようにして、すべての従業員の方たちは、売場・調理場ともに適度な緊張感に満ちた、惚れ惚れするような働きぶりでした。
調理パンの仕込み―衣をつける加減の難しい作業だが、手際よく進んでいく
調理場の様子―さまざまな仕事をみんなで間断なく仕上げていく
三つ目の疑問は、売り上げをあげるための工夫です。北浦和駅東口周辺には、スワンベーカリーを含めて5つのパン屋がある上、コンビニでも「焼きたて直送便」なとど称するパンを扱っていますから大変な競争です。赤字経営を克服するには、売り上げの拡大は至上命題で、「売るための工夫をすること」は小倉昌男氏のメッセージでもあります。
このお店では、店売りにとどまらず、さまざまな事業所にチラシを配って注文による配達販売に力を入れています。午前中の注文分を昼食時にあわせて焼き立てを配達する、午後は3時のおやつから夕方の小腹のへったころあい用の注文を受けて配達するという、2便に分かれた配達販売をすることによって、かなり売り上げを伸ばすことができたということでした。
一日の仕事を終えたばかりのTさんにお話をうかがいました。
宗澤「前に働いていた作業所の仕事(特養などの掃除)と比べて、ここの仕事はどうですか?」
Tさん「楽しい。友だちもできたし。パートのオバサンたちとも仲いいの」
宗澤「前よりもお給料がもらえるようになって、どう使ってるの?」
Tさん「去年のお正月にね、甥っ子と姪っ子にはじめてお年玉あげたの。それと前から犬を飼いたかったんだけれど、ついにチワワを飼えるようになった。かわいい子なんだ。ドッグフードも買ってあげられるしね。でも(狂犬病の)予防注射の時には、お姉さんに付いてきてもらわないと、よく分かんないんだけどね」
話をしてくださるTさんの表情はとても柔らかく、ホッコリとしています。それは間違いなく、今しがた終えたばかりの仕事に魂が入り、やりがいと誇りをもって働く人の姿だと思いました。賃金と障害基礎年金を合わせれば、自立した地域生活への展望が拓けるということは、Tさんの自立と幸せにとどまらず、Tさんに連なる多くの人と街のゆたかさを実現するということをお話から実感できます。
他の施設・作業所製品の販売コーナー―地域全体の発展に資するお店づくり
このお店に働く従業員の構成は、知的障害のあるパート8名に一般のパート12名です。飯塚さんによれば、ここで働くことを希望する障害のある人は大勢いるけれども一般就労の場は限られているというのが現在の地域の実情であるならば、できる限り多くの人に働く場を提供できるようにワークシェアリングをする必要を感じて、パート雇用にしているそうです。そこで、正規雇用でもっと働きたい人は、ここで働いた経験を土台にステップアップして欲しいと考えておられます。実際、そのように巣立っていった方も居られる上に、このお店に就労してドロップアウトした障害のある人は一人もいないということでした。
地域の障害者雇用の現状を見据えたポリシーの持ち方は、さすがに元埼玉県障害者福祉課長です。さまざまな意味で、このお店が障害のある人たちの地域生活を豊かにしていく拠点になればという願いの一環として、このお店には他の障害者施設・作業所製品の売場コーナーも設けられています。
配達からの帰り―街の息遣いとともに働く人たちの姿
焼き立ての香ばしいパン
スワンベーカリー北浦和店には、街とともに働き暮らす人の姿があります。障害のある人の実情を見据え、障害の有無にかかわらず垣根を越えて、ゆたかな地域をつくる営みの中に障害のある人が自然と溶け込んでいる風景でした。
このお店は、焼き立てのパンのように、障害のある人の地域生活への夢をふくらませ続けるでしょう。
コメント
スワンベーカリーでは、障害のある人もパン作りや掃除や商品を売ったりして、充実した仕事をすることができるので本当に良いことだと思いました。
私は船橋東武のB1へ働きに行った時に、3人の障害者のバイトまたは社員の人を見ました。1人は女性で2人は男性でした。
女性は足をひきずりながら買い物かご等を運んでいました。手伝ってあげたいくらいゆっくりでしたが、しっかり仕事をこなしていました。
男性は制服が違ったので他の仕事のようでしたが、何をやっていたのかわかりませんでした。なぜかうちの売り場の前を何回も通っていました。どのような仕事をしているのか気になりましたが、自分も働いているし、聞いたり見に行ったりすることもできなかったのでわからないまま終わってしまいました。
障害のある人は何かの作業をするのが遅かったり、難しかったりしますが、人間は皆平等な権利を持っているはずです。
障害のある人がパンを作ることを可能にするシステムのように、他の職業等でも障害のある人が様々な仕事に取り組めて、充実した生活を送れるような対策が考えられるといいと思います。
初めまして、私は九州のとある大学の夜間主に通いながら障がい者や福祉の勉強をしています。
このブログも、担当の先生から読んだ方が勉強になるよと、言われて覘いてみました。
私は今41才で今年3月まで個人で約20年間ケーキ屋をやってきました。しかし、折からの不況と、学校の勉強との両立が困難になってきたので、とりあえず後輩に店を売っぱらって、今は時間がある時は共同作業所等を回って勉強していますが、将来的には《発達障がい》を持った人たちと一緒に、親密生を持ったお菓子屋を作る事を目標にして頑張っています。
それには、まだまだ勉強が足りませんが、一つずつ一つずつ勉強していきたいと思っています。
これからも時々お邪魔させて頂くと思いますが、よろしくお願い致します。
このスワンベーカリーを大学の一番最初の講義内で、障害者の方々のこうして頑張って仕事をされてる姿を聞いてすごく感動をしました。
障害者の方々はただ福祉の方に入っているだけではなく、こうしてパン屋で働くということで、この社会の中で生活している普通の社会人となんら変わりのない生活が送れているということがすごいことだなと思いました。
そして、どのような方でもこのように働く場を与えてくれるオーナーは素晴らしいなと思いました。
私個人の考えですが、障害を抱えた方が自立していくことはとても大変だと思います。そのうちの1つが経済的な自立です。
現在の日本の社会では、一般の職場で働いている障害者の方はごく少数だと以前に聞いたことがあります。また、法律でも、障害者を雇用する努力は求められても雇用するように義務付けられてはいません。そのような中で、障害を抱えた方々の自立を目指そうとしても、途中で行き詰まるのは明らかではないでしょうか。
スワンベーカリー北浦和店さんは、その努力と工夫により障害を抱えた方でも働けるような店でした。パン屋さんでできることが、どうして他のお店や職場でできなのでしょう(単純な比較はできませんが)。
結局のところ、”やる”か”やらない”かの問題なのでしょうね。
私は、父からよくこのスワンの冷凍ケーキが送られてくるので何度も食べているのですが、障害のある方々が働いていて、作っているものだとは知りませんでした。
特にTさんのエピソードがとても印象的で、障害の有無に関わらず、やりがいと誇りを持って働くことができるのは人間にとってとても幸せなことだと思いました。幸せになる権利は皆平等にあるはずなのに、そのための手段(お金?仕事?自立?)が不平等であっていいはずがない。しかし、この国の福祉の現状を知れば知るほどそうではないと痛感してしまいます。
いつか、このスワンベーカリーのようなところが、どこにでも当たり前にあるような社会に日本はなれるのでしょうか…。
前回のコメントから半年が過ぎ、実際に宗澤先生の講義もお聞きし、またこの半年間福岡県内にある様々な作業所を福祉を勉強している菓子職人の目から様々な事業所や作業所を見て歩きました。
私がそういった場所で見てきたものはプロの目から見るとまだお客様を納得させられる商品はまだまだ少ないなと感じました。
もちろん、いくつかの作業所のいくつかの商品は《障がい者》と言うバイアスをかけなくてもこれは美味しい!売れる!と、言うものはありました。
今、障がいを持つ人たちとどうすれば自分の体の負担や環境(お金や設備)を簡略化して良い商品が作れるか模索、試作しながら日々過ごしています。
私は前回コメントさせていただいたように発達障がいを持つ当事者としてなんとかかんとか、そういったものを乗り越えてきました。
技術的な指導も健常者に対しては行ってきました。
しかし、障がいを持った人たちに対してのそういった取り組みはまだ暗中模索、まだまだ勉強が必要だと感じています。
しかし、勉強と同時に取りあえず学業と平行して近いうちに現場に入っていこうと思います。
頭で何を考えられるのか?自分自身の体はその現場でどう動くのか?
私もお菓子の現場で夢うつつです(笑)
今日、珍しくぽっかりと時間ができたので(と、言っても明日試験なのですが)、市内にある知的障がい者を持つ方達が作っているパン屋さんに行ってきました。
僕がそこに行った時、皆はジャムパンとアンパンを作っていました。僕も作業に混ぜてもらい、思いのほか楽しく作業ができました。
その後事業主さんに二時間ばかりお話を伺ったのですが、とても有意義なお話(80年代からのこの作業所の在り方や意義、現状など)をして頂きました。
僕は本を読んだりネットを見たりして情報や知識を得る事も嫌いでは有りませんが、やはり実践の方が好きなようです。
試験が終わり、春休みになったらその作業所で修行をさせてもらえる事になりました。
今からワクワクで楽しみです。
私はこの記事を読んで、以前障害者の方たちも働いているお豆腐屋で働いている方から聞いた話を思い出しました。
その話とは、障害のある方たちは、作業は決して早くはないけれど、個数や時間など数にとても正確だという話でした。
ですから、きっとこのベーカリーで働いている方も指示された個数・油に浸す時間などにとても正確に作業されているのだろうなと思いました。
障害のある方たちは作業に時間がかかったりできない作業があったりするけれども、このように作業をする上で良い面もあるのだから、その良い面を活かせて働くことのできる環境がもっと増え、障害のある方たちも自立した生活ができる世の中になればいいのにと改めて思いました。
私は、この記事を読んで、介護等体験実習で行った、特別支援学校のことを思い出しました。
教職免許の取得のために、介護等体験で行ったのは、埼玉大学近くの特別支援学校、埼玉桜高等学園でした。
埼玉桜高等学園は、特別支援学校でありながら就職率100%を目指した学校で、授業として三年間就職訓練を積み、生徒たちは常に就職のことを考えながら学校生活を送っていました。
私は、4つある学科のうち、環境・サービス科にお世話になったのですが、実習中生徒との会話の中で「ここのパンがすごいおいしいから、今度絶対たべてね!」と言われました。
生産技術科のフードデザインコースでは、パン作りを中心に授業を組んでいて、毎週校内のショップで、地域住民に向けて焼き立てパンの販売をしています。
私は、介護実習が終わってすぐにパンを買いに行きました。残念ながら知っている生徒には会えなかったのですが、購入したパンはほかのパン屋で買ったパンとなんら遜色もなく、本当においしかったです。
販売の手際も慣れたもので、何事にも一生懸命で丁寧に仕事をしていました。
きっとスワンベーカリーもみなさん丁寧に仕事をなさっていて、おいしいパンを作り、販売しているのでしょう。
今度時間を見つけて行ってみようと思います。
自分の実家の近くにもこのようなベーカリーがあります。そのベーカリーは支援学校の近くにあります。実は自分の弟は知的障害があります。なのでこういった話にはとても興味があります。自分の弟は今高校2年生で、今は色々と職業体験や実習をしているらしいです。文字の書きはまだ難しいみたいですが読みのほうはできるようになっているみたいです。自分はまだスワンベーカリーには行けていませんが、地元のベーカリーには行ったことがあります。とてもおいしかったという記憶があります。弟もこういうように働くようになるんだなと思うと何とも言えない気持ちになりました。
近いうちにスワンベーカリーへ行きたいと思います。
私は現在近所のパン屋でアルバイトをしています。そこでは障害者の方の雇用はしておらず、働いている人は全員健常者です。しかし、このブログを読み考えてみると、自分がこなしている仕事の中で、健常者でないとできないような仕事はほとんどありません。他の業種においても健常者にしかできない仕事は限られていると思います。
このスワンベーカリーさんのように、障害者の一般就労の場を広げるためにも、多くの企業が障害者雇用について見直してみるのが大切だと思いました。
私は現在、パン屋でアルバイトをしています。そこでは障害者の方の雇用はしておらず、働いている人は全員健常者です。しかし、このブログを読んで考えてみると、自分がこなしている仕事の中で、健常者にしかできないような仕事はほとんどありません。他の業種においても健常者にしかできない仕事は限られていると思います。
このスワンベーカリーさんのように、障害者の一般就労の場を広げるためにも、多くの企業が障害者雇用について見直してみるのが大切だと思いました。
私は今、お弁当屋さんでアルバイトをしています。そのアルバイト先には、難聴の方がいます。お店はさまざまな音がするため、なかなか声が通らないことがあります。しかし、わたしのほんの少しの気づかいで解決します。ジェスチャーを使ったり、少し大きな声で話をするだけで、同じように働くことができます。私もそうでしたが、障害のある方は同じように働くことは難しいのではないかと考えている人は多いと思います。しかし、こうした誤解は企業が積極的に障害のある方を雇用し、さまざまな人が一緒に働ける場所を提供することで解けていくものだと思いました。
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