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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

計画策定のポリティクス―(3)協議文化を創造する

 障害のある人の施策形成の基本は、協議を重ねることにはじまると考えてきました(1月29日付本ブログを参照)。ここには、二つの意味があります。
 一つは、わが国の政策決定過程における「多数決の原理」の横行を乗り越える協議をつくる意義です。もう一つは、協議のなかで参画の実質化を深める必要性です。

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 まず、「多数決の原理」の克服についてです。「多数決の原理」では、「多数による力の行使」によって施策のあり方が決定されますから、障害のある人が「少数派」である限り、常に障害のある人に資する施策は後まわしされることになります。現在のように深刻な不況になると、「五体満足でも生活が苦しい」ことを口実に、障害のある人の施策を「後まわしにすることもやむを得ない」というような風潮が高まりかねません。
 その上、「力の行使」が施策形成に有利であるとする原理は、障害のある人の中でも「大人数で声の大きいグループ」から順に施策化することにつながりやすいため、「少数で声の出しにくい」難病の方や、知的障害の伴わない発達障害のある人たちへの施策は、最後尾の課題に押しやられてきました。このままでは結局、事務局の専断と「予算獲得のために足を引っ張り合う」未成熟な文化を引きずってしまいます。
 少数の異論を排除せず、個人の経験や考えからはにわかには推し量ることのできない他者の困難について、理解または尊重し合うようになる手立ての一つが、私の考える新しい協議文化の創造です。これが「顔見知りの関係」から「他者に関心を向け合う関係」をつくる営みです。暮らしの困難が無限に多様であるならば、それを乗り越えたところでは無限に多様な幸福が実現するはずで、そこに至るまでの歩みをみんなで共有しうる文化が大切だと思います。
 社会福祉領域の事業者の中には、理事長や施設長等の世界観に、利用者とその家族を同一化させて一丸となることを「よし」とするような文化さえありますが、それは「力の行使」型施策形成への信念の裏返しに過ぎません。このような文化性に支配された事業者ほど、地域社会という多様な人たちの多様な困難と考え方の渦中に身を置いて、ともに協議に参加していく能力や度量は培われないでしょう。

 次に、参画の実質化を図る課題についてです。国連で障害者の権利条約の採択に向けた議論がされていた会場では、「without us!!」という声が盛んに聞かれたそうです。これはつまり、「私たちを抜きに(障害のある人の施策決定を)するな」という意味ですね。それでも、地方自治体の計画策定過程における当事者の参画は、私見によれば、相対的には障害領域がもっとも進んでいるでしょう。
 高齢者や児童の計画策定では、参画して「声を出す」のは事業者や専門家のウエイトが大きく、せいぜい家族までとする実情が強いのではありませんか。施策形成に向けて、子ども・高齢者自身が意見表明をする機会が保障され、それらの声を集約する取り組みは遅れているように思います。
 障害領域は、障害の状態像によっては自力での意見表明をすることができない方もおられますし、「多数決の原理」によって孤立に追い込まれている方も少なくありませんから、参画の実質化は、そのための施策が独自に必要となるほどの大きな課題であると受け止めるべきでしょう。
 ここに、相談支援と一体となった意見表明権の保障を障害のある人の自立支援の課題とする最大の意義があると考えます。相談支援は、第一義的にはそれぞれの人のニーズにふさわしくサービスを組み立てて保障することにありますが、それと同時に、はじめて出会った方の特殊な困難にも対応することのできる地域社会を創造する起点に位置するものでなければなりません。それは、「ともに社会制作する力」を育む営みです。

 ある市の計画策定で、それまでは特定の議員の政治力に頼って「予算獲得に狂奔してきた」方に、「地域のみなさんと話し合って力を合わせることのほうが、どれほど励ましになるかをはじめて知りました」とおっしゃっていただきました。それはきっと、高度に発達した福祉サービスを実現した北欧において、「妥協の政治」や「政治的交換戦略」といわれてきた文化性の真髄に通じるものだと考えています。


コメント


 はじめまして。北九州の大学生です。
 この記事を読ませていただき、「多数決の原理」の克服について、先日大学の講義で見せていただいた映画『12人の怒れる男たち』を思い出しました。もしあの場が「多数決の原理」が働く場であったとしたら…。協議文化を創造することが、いかに大切なことかを考えさせられます。
 また、「参画の実質化」については、障がいのある人や高齢者、児童の意見表明権をいかに侵害せずにいられるかということは、支援する者、共に生きていく者にとっても、心に留めておかなければならないことであり、大きな課題であるなと感じました。
 「代弁」をしてしまう前に、本人の意見に耳を傾け、引き出し、そして間違いなく伝えられる方法を、まずはあれこれ考えなければならないなと思いました。


投稿者: おかえり | 2009年07月20日 14:13

 こんにちは!
 なかなか難しい問題ですね…。多数決の原理は現代の民主主義社会を形成するためには必要であったことと思います。多数を尊重することで大多数の有権者の利益を保証し、支持を得やすいという今の政治システムを象徴しているようです。
 しかし、政策決定における多数決は必ずしも正解ではないことをほとんどの人々が黙認している状態でしょう。
 先生がおっしゃるように、障害を持つ人々は少数派に分類される限り、その声は無視されがちであると思います。
 このシステムを打破するためには、私たちが少数派の声を知ることであり、耳を傾けること以外に今は思いつきません。画期的なシステムが導入されれば、別ですが…
 障害を持つ方々と話したり、どうすればより多くの人々が幸せに暮らす社会を実現できるのかを考えたり、それについて話し合ったり。そのようなことができるのが大学という場所なのだと思います。私ももう少し考えながら、学んでいきたいと感じました。


投稿者: SF5 | 2011年01月21日 12:35

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

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