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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

日本的な旋律

 老若男女を問わず、誰もが小学校で一度は歌ったことのあるのは、作者不詳の日本古謡『さくら さくら』です。この曲は日本を代表する歌の一つとして、内外の公式なセレモニーなどでもよく使われるようです。

◇『さくら さくら』(作者不詳)
   さくら さくら やよいの空は 見わたす限り
   かすみか雲か 匂いぞ出ずる いざやいざや 見にゆかん

   さくら さくら 野山も里も 見わたす限り
   かすみか雲か 朝日に匂う さくらさくら 花ざかり

 古謡であるこの曲の歌詞には、どこにも「散る美学」などは見当たりませんね。ひょっとしたら、もともとの庶民にとっての桜の花は、長い冬を凌いだあとに訪れる春の喜びを象徴するものだったのかも知れません。とくに農民にとっては、稲作の作業に入りゆく季節の到来を告げる、愛でたい花だったのではないのでしょうか。

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 さて、この日本古謡『さくら さくら』の旋律は、「五音短音階」という伝統的な日本の音階で構成されています(譜(1)照。譜面の例示は単純なものとするために「ハ長五音短音階」ですが、実際の『さくら さくら』は「イ長五音短音階」です。また、音階が小節に分かれて記載されているのは無視してください。安価な楽譜作成ソフトを使ったためです)。
 前々回のブログに記した美空ひばりさんの『柔』は、「五音長音階」というもう一つの伝統的な日本の音階で作曲されたものです(譜(2)参照。例示は同様に「ハ長五音長音階」にしています)。
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 日本の伝統的旋律はこれら二つに限定されるわけではありませんが、『ずいずいずっころばし』等のわらべ歌やさまざまな演歌のメロディーをはじめ、子どもの日常生活における語調にも、これらの音階は表れています。
 たとえば、園部三郎氏によれば「たこたこあがれ 天まであがれ」という子どもの語調に表われる旋律は、次のようです(譜(3)、園部三郎『日本人と音楽趣味』国民文庫、1977年)。私は大阪の生まれですが、下の「関西」バージョンの旋律になじんできたことは間違いありません。
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 娘が保育所に通っていた頃に覚えてきた「握手でバイ バイ バイ」とか「お舟がぎっちらこ」でも、これらの音階による旋律でした(譜(4)と(5)、著者作成)。
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 子どもが「○○ちゃん、あそぼ」と呼びかける時、少なくとも従来はこの音階によっていたように思います(譜(6)、著者作成)。
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 しかし、演歌は以前ほど流行らなくなり、日本人の聴く音楽の世界は無限といってもいいほど多様化しています。すると、最近の子どもたちは「あそぼ」と友だちに呼びかける時にも、伝統的な旋律の語調ではなく、西洋音楽由来の音階(「七音長音階」、いわゆる「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」)に由来するような旋律に変わってきているのではないでしょうか(譜(7)、著者作成)。「歌は世につれ、世は歌につれ」ですね。


コメント


 私も”さくらさくら”を始めとするわらべ歌に魅力を感じさせられるときは多々あります。これらは単純なのに奥が深い旋律、独特のコード進行で情緒・風情を表現するのに最適な独特の音を奏でていて聞いていてとても癒されます。
 私はピアノを弾くことが好きなのですが、わらべ歌は曲に感情をこめる練習になるとよく勧められました。しかし、生活の中では、最近ではPOPSやROCKと言った歌詞先行型の曲をたくさん耳にします。歌はメロディーに頼らず、歌詞・言葉といった直に自分を主張することに方向が変わっている様に思えます。これもある種グローバル化する時代の流れなのでしょうか。


投稿者: Uran | 2011年01月26日 12:13

演歌というと私の祖母を思い出します。「さくらさくら」などの古謡は曾祖母に会うたび、「学校で習ったでしょう」と言って聞かされます。そのためか、どうしても演歌と言えば祖母の年代、古謡と言えば学校で習う程度、といった印象しかありません。新しい古謡が誕生する、ということはありませんが、演歌の世界には若い世代の歌い手が誕生したこともありました。演歌独特の「こぶし」という技法はいつ生まれたのでしょうか。なじみも薄く、惹かれることのない演歌と古謡、けれどその旋律を聴くと日本を感じずにはいられません。新年を迎えるとき、聴こえてくるのは琴と尺八のあの音色です。そういった日本の文化は次の担い手がいないことには失われていく一方です。普段感じることはないけれど、そういった文化が消えてしまうことはとても悲しいことのように思います。


投稿者: 栗 | 2012年05月23日 11:17

『さくらさくら』という曲が伝統的旋律で構成されていたということは知らなかったので驚きましたが、私は音楽だけでなく多くのことが現代において変化しているということは素晴らしいことだと思います。もちろん、伝統的なことを全く忘れてしまうということは良くありませんが、変化をしている現代でも、古来の文化にふれたときに受け入れることができるのであれば日々の変化や新しく生み出すことは必要なことだと思います。


投稿者: iwawawa | 2013年01月06日 15:46

最近の子どもたちは「あそぼ」と友だちに呼びかける時にも、伝統的な旋律の語調ではなく、西洋音楽由来の音階になってきているのは寂しく感じてしまいました。
それというのも日本の伝統音楽に接する機会が日常的に多くないのではないでしょうか。平成23年4月1日から施行された学習指導要領の音楽の授業時間は国語と比較してみると少なく感じます。私は日本の伝統音楽を積極的に鑑賞させる時間や表現の時間をもっと増やす事により、他人の感情をくみとる力や言語能力の発達に役立つと考えます。
例えば、小学校の総合的な学習の時間の中で箏や三味線の講師を呼び鑑賞会を行ってもいいと思います。さらに、時間があれば、それらの調弦されている楽器に触れ、音をだしてみるのも良いことであると思います。そうすることにより、箏の音の美しさを味わうことにより、主体的に日本の伝統音楽を鑑賞する能力が身に付くようになれば嬉しいです。
今日グローバル化の時代といわれますが、世界で生きていくためには、いくら言語運用能力が高くても、自国の文化を尊重し、大切にしなければ、自身のアイデンティティーを確立することができず、前に進めないかもしれません。
一歩前進するためにも回りに影響されずに愛国心をもち、文化を尊重して、自己を確立していくことが今の教育現場や日本社会には大切と感じます。


投稿者: ピアニストユキ | 2013年07月22日 14:20

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
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