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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

生活文化考2 オリンピックの話題から

 今、北京オリンピックで盛り上がっていますね。なかでも柔道女子63キロ級、谷本歩実選手の成し遂げたオール一本勝ちの金メダルには、敬服しました。

 日本の柔道は、国際的な競技スポーツとして広まり、地位を高めてきた度合いに応じて、「Judo」と「柔道」の競技観や文化性をめぐる捉え方の相違がしばしば表面化してきました。谷亮子選手が審判から「指導」をとられて負けた試合は、最初の組手のところから争うレスリングのような試合運びをする「国際柔道」ならではのものだとの思いが募ります。

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 それだけに、谷本選手の優勝決定戦における内股の一本勝ちは、「柔よく剛を制す」の見本ともいえるような試合運びで、実に気持ちがいい。仏のドコス選手が左足で大内刈りをかけてきたところで、体重のかかっている右足を払い、相手の体が泳いだところにすかさず内股をかけて勝負あり。相手の体の運び(重心移動)に合わせて技をかけていますから、ドコス選手の体は豪快に宙を舞い、仰向けで床に落ちる見事な一本勝ちでした。

 私にはいささか柔道の心得があります。中学時代に柔道をはじめた頃の先輩に、柔道場師範の娘の芸能人、和田アキ子さんの弟さんがいて、「柔よく剛を制す」ためにはまず、相手の体と足の運びを注視することだと言い聞かされた記憶があります。相手の重心移動に即して技をかけるのが、柔道の極意の一つです。
 相手の重心移動を活かして技がかかる場合は、技をかける一瞬の力だけで、相手の体はもんどり打ちます。抜群のタイミングで技をかけることができれば、あたかも勝手に相手の体が吹っ飛んでいくように感じられるほどです。柔道の立技がいつもこのように決まるとは限りませんが、それでも、谷本選手のように相手の体の運びを活かして「柔よく剛を制す」技が決まると、胸のすくような想いで、日本柔道本来のあり方に感じ入った方も多いのではないでしょうか。もっぱら自分のパワーを頼みに、投げを打ち組み伏せていくレスリングとは一味違うのだと。

 この「柔よく剛を制す」型の発想は、日本人のさまざまな暮らしの知恵として育まれてきたように思います。相手の力を活用し、物事の運びに抗うのではなくむしろ流れに即して目的を達成するようなかたちのあり様です。
 たとえば、日本の建築物には、高床式の住居、正倉院の校倉造、京都の町屋のように、風通しを良くすることによって、夏場の暑熱と高い湿度を忍ぶ術をもつ様式が育まれてきました。四季の自然に逆らわない処し方を暮らしの知恵としてきたのでしょう。
 また、日本の食文化は素材の旨みを活かす点に特徴があるといわれます。若狭湾の小浜と京都を結ぶ「鯖街道」は、若狭湾で獲れた鯖に塩をして塩加減のちょうどよくなった頃に京都に到着したといわれています。日本料理の鯛のお刺身は、活魚をすぐに刺身におろすのではなく、息を絞めて半日ほど経って、旨み成分が最高度に達する頃合いを見計らって調理し、お客さんに供します。このように、生の魚の食味自体の変化を活用するような食べ方を培ってきたことは、日本人ならではではないでしょうか。

 さて、本来の自立生活支援も、「柔よく剛を制す」ように、地域の運びをベースに、当事者の人生と現在の力の運びを活かすことができたときに、達成されるものだと思います。


コメント


 生活文化考2を拝見させていただきました。

 私は小学生のときから現在の大学生活まで柔道を続けてきました。柔道の基本理念は、「礼節を重んじ、しっかり組んで、理にかなった技で一本とる」ことです。
 私も、谷本選手の試合を見ていて思ったことが「きれいな柔道をするんだな。」というのが第一印象でした。これは、日本の柔道の本来の形である、と私は思いました。
 これに対して、外国の柔道というものはどういうことかというと、力でねじ伏せる。いわば、柔に対して剛です。私も海外で試合した経験がありますが、外国人はとにかく力が強い。技はそれに伴って巻き込みだったり、足を持ってきたりでした。
 現在では、国際ルールの改正により、帯から下の部分への直接攻撃は禁止になりました。これは、日本の古き良き柔道が見直されたからだと私は思っています。
 今、日本は東北の大震災の打撃を受けています。そんなとき、我々日本人は柔軟に剛を制していければいいなと私は思いました。


投稿者: takuyan | 2011年07月07日 19:08

こんにちは、コメントさせていただきます。
私は15年間柔道を続けています。「柔よく剛を制す」という言葉は小さなころから先生から言われていました。しかし先生がおっしゃったように欧米ではレスリングと柔道の違いは服を着ているか着ていないかと言われるまでになっていました。これではダメだということで帯から下を手で攻撃してはいけないとルールが変わりました。今年からは柔道本来の一本を目指すことを目的に谷選手のように指導で試合を決まりにくくするためのルールになりました。将来教員になった時にこういった柔道の醍醐味や心を教えていけるようになりたいです。


投稿者: K.K | 2013年01月24日 12:13

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
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発行:中央法規
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