生活文化考4
田辺聖子さんの『残花亭日暦』(角川書店)は、医師をされてきたご主人が脳梗塞で倒れ、要介護の状態から亡くなるまでの10か月間を日記に綴られた作品です。
このご夫婦の物語は、先年NHKの朝のドラマ『芋たこなんきん』で放映されましたので、ご存知の方も多いと思います。ご主人は「カモカのおっちゃん」として田辺さんの随筆にも登場する夫として知られていますが、3人のお子さんを残して先立たれた先妻の後添いになられた田辺さんの子育てへの姿勢と奮闘ぶりに、私は敬服の念を抱いています。
生活文化考3 「お盆」にみる日本人の死生観
先週は郷里で「お盆」を過ごされた方も多いでしょう。
日本人の習慣的行事である「お盆」とは、祖先の霊魂を迎えて祀り、「盆」のひと時をともに過ごし、「あの世」へ送る営みです。このような恒例の行事を重ねることによって、祖先への感謝と今を生きる人たちの安心を人情でつないでいく営みです。
「お盆」をめぐるこのような宗教的感情は、仏教圏を国際的に比較検討したとき、特殊日本的な性格のものであることが明らかにされています。(五来重(ごらい・しげる)『日本人の死生観』角川選書1994、阿満利麿(あま・としまろ)『仏教と日本人』ちくま新書2007等)
宗教学者である阿満氏によれば、「仏教は、必ずしも霊魂を認める宗教ではない」から、仏教渡来以前の日本における民族宗教(自然宗教)が営んでいた魂祭(正月と7月)と、仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ)の習合したものが、私たちになじみのある「日本のお盆」だそうです。
生活文化考2 オリンピックの話題から
今、北京オリンピックで盛り上がっていますね。なかでも柔道女子63キロ級、谷本歩実選手の成し遂げたオール一本勝ちの金メダルには、敬服しました。
日本の柔道は、国際的な競技スポーツとして広まり、地位を高めてきた度合いに応じて、「Judo」と「柔道」の競技観や文化性をめぐる捉え方の相違がしばしば表面化してきました。谷亮子選手が審判から「指導」をとられて負けた試合は、最初の組手のところから争うレスリングのような試合運びをする「国際柔道」ならではのものだとの思いが募ります。
生活文化考1
これから暫くの間、庶民の生活文化について綴ってみようと思います。
生活の土台には、それぞれの土地や風土に応じて、せちがらい世の中を庶民が生き抜くための「生活の知恵」が埋め込まれてきました。ところが、「生活支援」の援助技術的な議論になると、このような生活文化が具体的に語られてきた経緯が希薄なのではないかと思います。
私が講師をしたことのある、障害のある人の「地域生活移行」への取り組みにおける広域の研究集会では、それぞれの地域の諸条件の違いとしてレポートとミーティングで言語化される部分は、「地価の違い」によるグループーホーム新設の条件の相違くらいなもので、地域ごとの生活水準・生活関係・生活時間・生活空間等をめぐる文化の具体性については、なかなか語られることはありませんでした。このままでは、障害のある人の地域生活保障に、地域の生活の知恵や民衆の理性を活かす取り組みが発展することはないのではないかと心配するのです。
そこで、これから暫くの間、庶民の生活文化について綴ってみようと思います。私の出自が大阪であるために、関西ネタが多くなるかもしれませんが、それはあくまでも例示として皆さんに受け止めていただければと思います。つまり、生活文化にみられる民衆の培ってきた知恵を活かす発想が、生活支援の世界でもっとゆたかに展開されていいのではということを考える一助にして戴ければと願っています。