鳥の育雛
「保育所を利用して(1)~(4)」をこれまで書いてきました。このきっかけは、私にとって5月10~16日の愛鳥週間にありました。
「バードウィーク」はアメリカ伝来の習慣です。アメリカに従ってもともとは4月10~16日のところを、この時期の日本では北国を中心に雪の残る地方も多いところから、1か月遅い設定に替えられたそうです。しかし、この時期の鳥たちは繁殖期に入るため、日本の愛鳥週間には、鳥たちの繁殖行動を街中でも見ることができます。
巣材を運んだり餌を巣に運ぶ姿が、街路を歩く時にちょっと注意して眺めるだけで見られます。スズメやシジュウカラなど、普段は植物の種子を主食としている種類でも、育雛中はイモムシなどの動物性蛋白をヒナに与える必要があるため、アオムシを嘴に咥え、急ぐように巣へ飛んでいく姿が印象的です。
このような鳥の育雛の姿を見るたびに、自分のしてきた子育てを振り返っては考える機会にしてきました。鳥類のほとんどは、育雛にオスとメスが何らかの形で協働します。とくに、ヒナが生まれてから暫くの間巣で育てなければならない種の鳥(「晩成性」というそうです――樋口広芳『鳥たちの生態学』、朝日新聞社、1986年)は、巣づくり・抱卵・育雛のプロセスの中で分担や協働をしながら、オスとメスはかいがいしくもヒナを育てます。シマアオジやコジュリンなどは、抱卵もオスとメスで行うそうです。抱卵がメスしかしない種の場合には、抱卵中のメスへの餌の調達は、必ずオスが行います。
数年前の愛鳥週間の出来事です。大学の研究室の窓の外側の、窓ガラスとクーラーの室外機の間の狭い空間に、ハクセキレイが営巣したことがありました。金~日曜日に出張をして帰ってきてみたら、すでにきれいなお椀状の巣ができていたのです。
「ここまできたら、そっと見守ろう」と考えて、研究室の窓全体に緑色の模造紙を張り、模造紙の一部に、巣を観察できる開閉小窓を5センチ四方つくり、クーラーを使うのはご法度としました。ヒナが巣立つまでは、静寂な研究室とすることを含め、出入りする学生たちにも徹底させたのです。
ほどなくハクセキレイは5個の卵を産んで、抱卵期に入りました。約2週間経ったころにヒナが誕生し、親鳥の餌運びが始まりました。親鳥が餌を運んでくるとヒナが騒がしく啼くので、研究室の中からでもすぐに分かります。特定の1時間に給餌の回数を数えてみると、15回でした。これを育雛期間中は夜明けから日没までやっていましたから、仮に日の明るい時間帯を13時間としても、1日あたりの給餌回数は何と195回!!(まぁ、大変)。
育雛期間も約2週間で、ヒナは無事に巣立ちました。でも、最後の巣立ちにホッとして、窓の模造紙を剥がしにかかったら、まだ1匹だけヒナが巣立てずに残っていました。すると、オスの親鳥が向かいの建物から一直線に飛んできて、ヒナを守ろうと私を威嚇します。
親鳥たちは、必死に育雛しているんだな…これは、子育てに苦労している霊長類ヒト科の勝手な思い入れか~。でもよかった、よかった、ハクセキレイの育雛に協力できて。ひっとしたら「鶴の恩返し」ならぬ「ハクセキレイの恩返し」に発展するかも…これはない。
さて、鳥の世界には育雛を手伝う「ヘルパー」のいる種がいます。ツバメなどは、育雛中の巣にヘビが襲うところをオスが闘って、死んでしまうことがあるそうです。そんな時ツバメには、つがいを形成していない若いオスが「ふうてんのツバメ」として空を飛んでおり、親鳥のオスがいなくなった育雛中のメスのところに飛んで馳せ参じるとか。もちろん、亡きオスの代わりに育雛をしっかりします。ツバメの世界には、「継父の虐待」はないようです。
コメント
まず、私はこの記事を読んで感動しました。鳥の、命を懸けて、時には命を落としてでも自分の子供を守ろうとする姿勢に心を打たれたからです。でも、同時にこのようなことも思いました。「これが本来の愛の形なのではないか…」と。そして、「人間もそれは同じなのではないか…」と。体罰や強制は全て歪んだ愛の形であって、実父母や継父母であることに関わらず、体罰や強制に訴えることなく、このようなことができるのが本当の愛の形であり無償の愛と呼べるものなのではないでしょうか。
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