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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

保育所を利用して(3)

 保育所を利用しはじめてから、私が気づいたり実感させられたことが2つあります。1つは、子どもの成長と発達を体感したことです。もう1つは、郷里を離れて初めて「地域」を実感したことです。

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 まず、子どもの成長と発達について。
 私の娘は、ちょうど喃語から初語の獲得に向かう時期に保育所へ通うことになりました。「パパ」や「ママ」のような初語の獲得は、生後10~11か月が標準とされます。別にその時期を意識していたわけではありませんが、街角で犬に出くわすと「ワンワン」、猫ならば「ニャンニャン」と、親が子どもに言い聞かせてやるようなことを私もしていました。

 私は特に、保育所の送り迎えの折などに鳥のさえずりが聞こえると、娘には自己流の「聞きなしもどき」を聞かせていました。たとえば、ヒヨドリが「ぴーぴー」と囀ると、私は「ピーピー」と言葉かけするような、たわいのないものです。カラスは「カーカー」、スズメは「チュンチュン」といたって単純。ただ、シジュウカラはいささか複雑で、実際は「ツィーピ、ツピツピ」のような感じで囀りますが、娘には「カラカラ」と言っていました。これは、犬が「ワンワン」と吠えないときでも、子どもには「ワンワン」と言い聞かせることによって、ちゃんと弁別と命名がついていくのですから、さほど矛盾はなかろうと勝手に考えていました。

 娘が1歳になった頃のことです。保育所は、武蔵野の木立が残る森の一角にあります。いつもどおり保育所にお迎えに行くと、保育士さんが目を丸くしておっしゃるのです。お昼寝から目覚めたときに、たまたま戸外からいろんな鳥のさえずりがきこえてきたそうな。すると娘は、カラスが鳴くと「カーカー」、ヒヨドリが鳴くと「ピーピー」、シジュウカラが鳴くと「カラカラ」と言うので、驚きましたと。

 それを聞いて、私はもちろん大笑いしました。
 子どもがすくすくと大きくなるさまを目の当りにすることは、親として嬉しい限りです。ただ、子どもの発達を受け止めて、子どもとの触れ合い方やコミュニケーションのありようを親が自覚的に変えていかなければならないことは、頭では分かっていても、結構難しさを感じる場面に多々出くわしたような気がします。初語から1~2語文に変化していくステージなって、「ワンワン」とか「ピーピー」と言ってやるだけでは「親のほうが遅れている」ことになってしまうからです。

 でも、だからといって、親子の間柄で「子どもの発達にふさわしい支援」などと一途に考えてしまうのは、自身と子どもに対してあまりにも強迫的で、精神保健によろしくない。そこで、子どもの変化には十分な注意を払いつつも、私は田辺聖子の次の川柳を座右の銘としていました。

気張らんと まあぼちぼちに いきまひょか

 それでも、娘の体重の増加につれて、抱っこすることには、疲れているときなどに厳しさを憶えました。当たり前のことですが、子育てには親の体力・腕力の必要を実感します。ふつう子どもを抱っこするときは、左手をお尻の下側にまわして体重を受け止め、右手を肩口から背中にまわして体を支える格好になりますね。すると、娘の体重が増えるにしたがって、体重を支える左手の腕力をどんどんつけていくことになります。

 抱っこをする回数や時間の長さは、ハイハイからつかまり立ちを経て、自分の足で歩けるようになると減っていきますが、それでも2歳までは抱っこをする機会は日常のこと。つまり、丸3年もの間、左腕の筋力トレーニングを毎日欠かさず続けているようなものです。なるほど「母は強し」と言われてきましたが、これは精神力だけを指した言葉ではないと思うようになりました。
 そこで、子育てに参加し切れていないお父さんたちに一言。「母は腕力も強し」ですよ(次回、「地域を実感したこと」に続きます)。


コメント


母親から聞いた話なのですが、私は生まれてすぐ母親の元から離され、それから約1年間、母親はとっくに退院していましたが私はひとり病院に残り何らかの治療を受けていたそうです。詳しい病名までは聞いてはいませんが、当時母親は本当に寂しい思いをしていたそうです。子供の成長を見守ることができるということは、本来親にとっては大きな喜びのはずです。親による幼児虐待の事件を改めて疑問に思いました。


投稿者: しまんちゅ | 2010年07月23日 20:21

 私にはまだ子どもはいませんが、いずれは結婚して子どもを産み育てていきたいと思っています。自分の子どもが毎日見せてくれる成長は、それがどんなに小さな成長であっても、親にとっては非常に大きな喜びとなるのではないでしょうか。
 インターネットや携帯サイト等のブログでは、わが子の妊娠から出産、子育てまでを日記にしている人も多いようです。また、公開ブログである場合、同じ状況の親御さんとも交流ができたり、良いアドバイスを出し合えたりと、子育てに関して心強い味方もたくさんできるようです。
 何か子育てにおいて苦戦していることがあるときに相談できる人が周りにいると、お互いに励ましあうことができるので、幼児虐待にはつながらないのではないでしょうか。子育てに奮闘する親御さんたちが自由に交流できるような、共に子育てに関する多くのことを学べるような環境をより充実させていくことが重要だと思います。


投稿者: 空 | 2011年01月16日 20:33

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
定価:¥3,150(税込)
発行:中央法規
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