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梶川義人の「虐待相談の現場から」

公益事業の「公益」はいずれ不適切な表示になる?

 全国のホテルやレストランなどで、不適切な食材表示が続発しています。連日のように報道されていて、呆れ返るばかりですが、「不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年5月15日法律第134号)」という法律があるくらいですから、表示に関しては、以前からもあれこれ問題があったのでしょう。しかし、私は、これらのニュースを聞くたびに、「クリームスキミング」という言葉が頭に浮かびます。

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 この言葉は、「牛乳から美味しいクリームの部分だけをすくい取ること」から転じて、利潤の大きい儲かる部分にだけ手をつけることを意味します。近年、わが国では、規制緩和によって、通信、運輸、医療、教育などの公益事業への新規参入が相次いでいますが、新規参した事業者が、収益性の高い分野や対象のみをターゲットに商品やサービスを集中させる場合などがその典型です。

 要するに「いいこと取り」のことなのですが、これが売り手において高じれば、濡れ手で粟のように、労せずに利益を得ようとするようになります。しかも、これはエスカレートしやすいものです。私たちは、何につけても「最少の○○で最大の□□を得る」ことが身についているからです。

 こうした傾向は、買い手についても当てはまります。多くの人は「いいとこ取り」したいですし、「労せずに云々」が強まって何の不思議もありません。したがって、売り手と買い手の果てしなき「いいとこ取り」合戦が繰り広げられることになります。

 売り手にとって、この合戦を上手く切り抜けるのは容易ではありません。そこで、禁断の果実「情報の非対称性」の誘惑に負ける者が出てきます。つまり、売り手が買い手より、商品やサービスに関して、より確かでより多くの情報を持っている情報の非対称性を利用し、売り手に都合のよい表示をしてしまうわけです。

 売り手の「いいとこ取り」の例は、介護福祉や高齢者虐待の分野にも及びます。

 介護保険が導入された当時、不謹慎な言葉ですが、老人ホームなどには「元気な寝たきり」という隠語がありました。寝たきりなので要介護度が高くて報酬も多い、しかも、動ける認知症ほどには介護の手間がかからないから、良いお客様だという意味です。そして、良いお客様獲得に奔走する施設も少なくありませんでした。

 また、高齢者虐待防止法が施行された当時、管理職が部下のケアマネジャーたちに対して、虐待の事例は担当しないように指示する居宅介護支援事業所も散見されました。報酬が同じなのだから、「対応困難の代名詞のような案件には関わるな」というのです。確かに、力量が上がるくらいのインセンティブしかないのですから、「法律さえなければ関わりたくない」という人も多いでしょう。

 ところが、収益性に目を向けざるを得ない現実もあります。そもそも他の業種より給与水準が低いと言われる介護業界にあって、他事業所より低い賃金しか払えないのでは話になりません。同じ様な労働条件なら、人が給与の高い事業所に流れて当然ですから、背に腹は代えられずに「いいとこ取り」に走るようになってしまうわけです。

 こうしたことが横行すれば、どの事業所も収益性の低い分野や対象を切り捨てざるをえなくなり、公益事業なのに公益性は維持されなくなります。ですから、公益事業の「公益」が有名無実化して不適切な表示にならないように、今が思案のしどころなのだと思います。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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