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梶川義人の「虐待相談の現場から」

私、失敗しないので

 最近、2歳の長男を暴行し死亡させたとして、父親が、傷害致死容疑で逮捕されたことが報道されました。父親は、以前にも長男への傷害容疑で逮捕(不起訴)されており、長男は昨年から乳児院に入所していました。その後、児童相談所の判断で、今年6月から自宅への長期外泊が認められ、7月に正式に家庭復帰して約2週間後に事件は起こりました。どうして防げなかったのか、とても悔やまれる事件です。

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 児童虐待の分野には、家庭復帰の適否を判断する際のチェックリストがあります(厚生労働省雇用均等・児童家庭局「子どもの虐待対応の手引き 平成21年3月31日改正版」200頁-202頁)。良く出来ていると思ったので、私も、このチェックリスト参考に、数化できるようにして本に載せました(障害者虐待の防止マニュアル(宗澤忠雄編著『障害者虐待 その理解と防止のために』、2012、中央法規出版)。

 チェックリストでは、次のような評価をします。

披虐待者について家庭復帰の希望と自信の有無及びその現実性、虐待者への信頼、虐待者への愛情、成長・発達は順不調、リスク回避能力の有無。
虐待者について家庭復帰の希望と自信の有無及びその現実性、虐待の事実を認めているか。
環境について地域や近隣からの孤立やトラブル、経済的・物資面・住宅面の生活基盤、被虐待者の心理的な居場所の有無。
支援経過について面会や外泊の計画的な実施、その経過が良好な実績、実績に無理があるかないか。

 当事者の意向だけでなく、それが現実的なものであるかも併せて評価し、家庭復帰を認める際には、大丈夫だと判断する具体的な根拠も挙げる点がポイントです。しかし、冒頭にあげた事件について、県知事は「自宅に戻したのは明らかに失敗だった」と謝罪会見を開きましたから、判断に何らかの抜かりがあったのでしょう。

 もっとも、いざ判断する立場になれば、あれこれ迷うのが常です。女優の米倉涼子さん演じる外科医大門未知子のように、「私、失敗しませんから」と断言できるようになれたらどんなに良いことか。

 一般の相談でも、クライエントが、本心からではなく、相談者の意向に沿った言動をとることがあります。周囲の期待に無理に応えようとする過剰適応とでもいうのでしょうか。また、そもそも二面性を持つ人は多いですから、彼らが「演じている」ことに気づかないと、判断を誤ります。

 また、利害関係者からの話については、その信ぴょう性が気になりますし、ストックホルム症候群や共依存の状態ある人は、強い思い込みのもとで話しますから、その点も踏まえないといけません。

 要するに、家族復帰や分離の判断には、こうした困難を越えて真実を見抜き、今後を正確に予測する力が求められますが、自信を持つに至るのは一苦労というわけです。仕事柄といえばそれまでですが、「人を見たら嘘つきと思え」を実践する嫌な人間になってしまいそうです。

 この点で、自信を持つ一助になりそうな資料があります。それは、毎年出される、「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」です。直近のものは第9次報告で平成25年7月に発表されました。平成23年度内の児童虐待の死亡85事例(99人)の分析に基づき、課題と提言がまとめられています。

 児童虐待の分析ですから、そのまま高齢者虐待などに適用はできませんが、目の付け所や考え方などは、大いに参考になると思います。


※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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