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梶川義人の「虐待相談の現場から」

やられていなくても倍返し!?

 「半沢直樹」、言わずと知れた「倍返し」や「土下座」で話題のTVドラマです。相当な高視聴率なので、「鬱憤を晴らしたい人が沢山いるのかな」と思っていたところ、店員にクレームをつけて土下座をさせた女性が、強要罪の疑いで逮捕されたことが報道されました。女性は介護職員だというので、仕事で溜まった鬱憤を晴らすなど、代償行為としての土下座の強要なのではないか、と関心を持ちました。

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 半沢直樹には、やられたらやり返すだけの意志や能力、つまり強さがあります。ですから、10倍返しだって100倍返しだってできます。しかし、それほど強くない者は、やり返せずに、できる範囲のことで我慢するほかありません。だからこそ、八つ当たりなどの代償行為を、自分より力の弱い者に向けてお茶を濁します。

 この点、反撃しないとわかっている相手は格好の標的です。それでも、持ち物に当たるなら差し障りませんが、動物や人間を相手にすると問題になります。「やられなくても倍返し」になってしまうからです。

 行政や介護サービスの事業所に対して、クレームの名目で、本来なら不必要なことを脅迫的に強いる人がいますが、代償行為である例は少なくないと思います。「自分は誰からも正当な評価を受けて来なかった」という鬱屈した思いが動機である場合などがその典型です。

 いずれにせよ、やられたときの気持ちがスッキリ晴れないと、それは内圧となってずっと尾を引きます。今は目立った活動はしていないが立派な活火山であるというに等しく、何かのきっかけで爆発し「倍返しだ!」と叫ぶことになります。

 おそらく最も普遍的なきっかけは、「ルール違反」でしょう。これを理由にすれば、八つ当たりの憂さ晴らしも、制裁として正当化できるからです。

 ところで、制裁とは本来、法令や特定集団が、ルールを定めてそれに違反した者に対して、当人が不利益を被ったり当人にとって不快であったりする罰を与えることです。しかし、私達は、個人としても集団としても、独善的にルールや罰を決めたがるところがあります。

 しかも、内圧が大きいと、到底社会的合意は得られそうにないことでも、勝手に決めて実行してしまいます。リベンジ型の虐待もそうですが、熱狂やヒステリーの状態にあるものも含め、特定集団によってなされる私刑(リンチ)も、その好例です。

 思想団体や宗教団体あるいは不良グループなどの事例は、事件化して有名なものが幾つもありますが、事件やトラブルの当事者を、推定有罪として一方的に報道するマスコミや、教育やスポーツの場で与えられる罰も、社会的合意が得られておらず、私刑に等しい例は少なくないと思います。ブログやSNSの投稿に対する「炎上」の問題も然りです。

 件の女性介護職員も、店員が土下座する写真をネットに投稿しており、ご多分に漏れず炎上しています。つまり、店員を制裁したはずが、ネットで制裁を受けているわけです。これは、皮肉なことというより、ルール違反を「罪」とするなら、まさに「罪と罰」、ルールとルール違反と罰、これらは一体的に社会として考える必要があるという、良い教訓だと思います。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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