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梶川義人の「虐待相談の現場から」

家族の機能不全は当たり前!?

 夏休みの時期になると決まって思い出すのは、子どもの頃に、農家の祖父母の家に泊まりに行き、連日遊びほうけていたことです。釣りや虫取り、秘密基地の建設、丸太からの小舟削り出しと大忙しでした。都会っ子の私は、豊かな自然に触発され、「トム・ソーヤの冒険」的な発想をしたのだと思います。

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 もっとも、私が熱中したのは、冒険というより何かを作り出すことのほうでした。時がたつのを忘れて作業に没頭し、シャツは汚すはズボンは破くはしながら、本当によくあれこれ作り散らかしたものです。周囲は、落ちにくいシミのついた服の洗濯やかぎ裂きの繕い、何の役にも立たない造形物の片付けをせねばならず、大迷惑だったと思います。

 しかし、現在では、何かを手作りする機会がめっきり減りました。裏庭の竹で釣竿を作ったり農業用の網で虫取りを作ったりしなくても、100円均一ショップに行けば何でも手に入ります。衣類は縫わなくても、○クロや○松屋に行けば安く買えます。そのうえ、作業をしなければ怪我をする心配はありませんから、手作りしないのは当然かもしれません。我が家では、物づくりだけでなく、コンビニが台所や冷蔵庫代わりですし、クリーニング屋さんはクローゼット代わりなので、機能も外部に託している感があります。おかげで、とてもコンビニエンスです。

 思えば、人間の歴史は、他の誰かに何かを委ね続けてきた歴史なのではないでしょうか。そして、社会を構成する基礎単位としての家族は、その機能までも外部委託するようになりました。家族機能をオーソドックスに分けると(参考文献:森岡清美・望月嵩『新しい家族社会学』培風館、1983年)、性行為が結婚関係においてのみ認められる「性的機能」、子どもを社会適応できる人間に育てる「社会化機能」、共同生活を営む「経済機能」、私的空間での安らぎや憩を得る「情緒安定機能」、病気や高齢の家族員の扶養、養介護、看取りをする「福祉(保健医療)的機能」の5つになりますが、家族以外にこれらの役割を委ねることが多くなってきたのだと言えます。どうりで代行業が流行るわけです。

 よく「虐待が発生する家族には機能不全家族が多い」と言われます。ですが、児童虐待にせよ、DVにせよ、障がい者虐待にせよ、高齢者虐待にせよ、それなりの取り組みはなされているのに発生数が減らないところをみると、自前で5つの機能を担える家族は減り、機能不全な家族が増えているのだとも考えられます。早晩「虐待予備軍」の家族が多数派になるのかもしれません。

 だとすれば、解決に追われている現行の取り組みは、船底に穴が開いているのを塞がずに、水をかいだしているに等しいのかもしれません。何とかせねばなりませんが、船底の穴を塞ぐためには、やはり、家族の機能不全の一次・二次・三次予防を目的とする法律が必要不可欠だと思います。なにしろ全ての家族が対象になるのですから。今のところ、法律の漠然としたイメージしか描けません。しかし、少なくとも、夫婦関係、子育て、障がい者や高齢者の養介護にまつわる危機に対して、すぐに実効ある支援の手が差し伸べられるようであって欲しいとだけは思います。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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