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梶川義人の「虐待相談の現場から」

虐待と良心の連鎖的発露

 新しい物好きの私は、買って後悔することが少なくありません。しかし、スマートフォンは違いました。「歩きスマホ」こそしませんが、今や欠かせぬ相棒です。「虐待」と「DV」をキーワードに、ニュース等の情報集めをしてくれるので本当に重宝していますが、最近、人が人を虐げる件数の多さが気になっています。

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 DVについてみると、警察庁生活安全局生活安全企画課「平成24年中のストーカー事案及び配偶者からの暴力事案の対応状況について」(平成25年3月14日)によれば、配偶者からの暴力事案の認知件数は43,950件です。児童虐待は、NHK NEWS WEB「児童虐待過去最多の6万7000件近く」(平成25年7月25日17時30分)によると、平成24年度中に児童相談所が対応した全国の児童虐待相談件数は66,807件です。高齢者虐待は、厚生労働省老健局「平成23年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」によれば、市町村による虐待判断件数は16,599件です。

 そして、障害者虐待は、読売新聞社が行ったアンケートに、23府県は3月までの半年分、他の24都道府県は1~5か月分を回答した結果、市町村によって認定(疑いを含む)されたのは1,033件だそうです(2013年5月9日付読売新聞)。予測は難しいのですが、法律ができると関係者に認識が広まり、いわゆる「事例の掘り起こし」現象が起きますから、障害者虐待の件数はもっと増え、年度でみれば2,000件は超えそうに思います。

 もとより、いずれの問題も隠蔽性が高く、把握できているのは氷山の一角だとされていますから、いささか乱暴ですが、毎年、被虐待者だけの人口12万人程度の都市と、虐待者だけの人口12万人程度の都市ができていることになります。東京都の人口推計は7月1日時点で約1327.6万人なので、55年ほどで東京都規模の大都市ができる勘定です。しかも、どの問題も法律ができる前、それも終戦の1945年以前から存在しているので、既にできていると言えるでしょうし、セクハラ、パワハラ、いじめ、体罰なども加えたら、三大都市ができているのかもしれません。イメージすると、途方もない数で気分が落ち込みそうです。しかし一方で、そう捨てたものでもないという思いもあります。

 最近、京浜東北線の南浦和駅で乗客40人が演じた救出劇が、世界的な話題になっています。外国のメディアはこぞって、日本人の団結力やわずか8分で通常運転を回復したことに感心している様子ですが、私は、人を助けるという日本人の良心が連鎖的に発露したのだと考えたいと思います。つまり、きっかけさえあれば、個々の良心は連鎖的に発露し、とてつもなく大きな力を発揮するのだということです。ですから、虐待の防止と支援の未来にも希望をみる思いがするわけです。

 今、私たちが設立を計画しているもNPO法人の活動も、こうした「きっかけ」の一つになるよう頑張りたいと思います。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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