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梶川義人の「虐待相談の現場から」

自業自得論と勧善懲悪

 児童虐待をしていた親が、後年、力が逆転して、子どもから仕返しされる。今は、愛情をかけずに育てた子どもに介護されているが、ネグレクト状態である。現役時代、妻を酷く扱っていた夫が、定年退職後に要介護状態となり、今度は妻から酷い目に遭わされる。このように、高齢になってから、かつての因果の報いを受ける「リベンジ型」の事例があります。

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 こうした事例には、決まって「たとえ虐待されていても、それは高齢者の自業自得なのだから仕方がない。」という意見が出されます。なかには、制裁を受けるのは当たり前だという急先鋒もいます。こういう考えの虐待者は、「正義は我にあり」と思っていますから、意外にあっさり虐待を認めたりします。

 同じような文脈で、高齢であっても躾は必要だという考え方があり、認知症の高齢者をキチンと躾けようと、本気で戦う介護者がいます。そして、躾が暴言・暴力にエスカレートしたりします。また、高齢者が暴力を振るう、徘徊がひどくて周囲に迷惑をかける、転倒して怪我をする危険性があるなど、身体拘束はときに必要なのだという意見も根強くあります。いずれも、介護者が自分の行為の正当性を主張するときに口にしやすい言説です。

 共通しているのは、虐待や身体拘束の原因が、むしろ高齢者の側にあるという考え方です。同じような意見が、高齢者虐待防止法の成立を遅らせる要因のひとつになったと言われています。高齢者に原因があるのなら、勧善懲悪の構図は崩れますから、立法化に消極的な人が多かったのでしょう。この点、勧善懲悪の構図が分かりやすい児童虐待については、どこの国でも真っ先に立法化されています。

 ここで注目したいのは、ご紹介したような意見や考え方が出てくる背景です。私は、そこには、養介護が、心理的にも、身体的にも、社会的にも、経済的にも、とても大変だという事実があるのだと思います。本来なら、養介護者を支援するための法律があって然るべき位に、です。

 ですから、高齢者虐待への取り組みが勧善懲悪一本槍というわけにはいきません。是非、当事者の安定した生活が継続するように支援を展開したいと思います。児童虐待分野の言葉を借りれば、パーマネンシーを考えるわけです。家族など、高齢者の身近な関係者が虐待者なのですから当然ですが、家族の再統合も視野には入れておきたいものです。もちろん、高齢者は成人なので、家族再統合ありきではないのですが、少子高齢時代の新たな家族のあり方が見えてくるかもしれません。

 「法は家庭に入らず」という言葉があるように、これまでは、行政などが家庭のなかに介入するのは控えられてきました。ところが、虐待防止関連の法律ができたことで、ある程度の介入できるようになり、厄介な家庭のゴタゴタに首を突っ込むハメになったとも言えます。しかし、わが国が置き去りにしてきた問題である、イエ制度後の家族の在り方を、じっくり模索できる機会に恵まれた、とも言えるのではないでしょうか。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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