全国各地で…『お風呂が“介護現場を”変えている』
小説でも専門書でもそうだが、活字だけが並んでいて、難しい表現や苦手分野が出てくると、読むことをやめてしまうタイプの人がいる。これは、多くの人が受験のときに経験する“英語の長文読解”とよく似ている(笑)。実はあれも、わからない単語があっても、最後まで読みきってしまえば“なんとなく”その意味がわかるのだが、壁にぶつかった時点で「もうわからない! 頭が痛くなる!?」てな具合だろう(笑)。
しかしそれも“個人の能力の問題”と言わんばかりに、本作りの基本が変わらないとすれば、古くから情報や表現媒体の中心である『本』というものは「大したツールではない」と言わざるを得ない。本とは「読んでもらってこそ」だろう。特に専門書などは、明日から役に立ったり実行性がなければ意味がない。
ところで、本年2月に中央法規出版より発刊された『お風呂が生活を変えていく』が、全国の介護現場を変えつつある。入浴に関する(ハウツーも含めた)本は数多く出てはいるが「これは群を抜いている!」と、知り合いの他社の編集者が舌を巻いていた。
僕も本書の監修者として、もちろん内容的には(自分の映像以外は!?)自信はあるのだが、それ以上にこれは、“DVD(映像)+本”の強みとでもいうのだろうか…その期待どおり、購入した人たちや事業所は「即!行動」とばかりに“面白い”動きと実践をすでに始めている。
自分で言うのも憚るが、この本は内容的にも技術的にもかなり高度だと思う。その上、いまだ“古い考え方”の看護や介護が日々繰り返されている多くの現場には「はたして?」と危惧していたが、杞憂だった。全国の現場は「待ってました!」とばかりに飛びついてくれた。すでに浴槽はある、また改築はしたが…という、ハードがあってソフトがなかった。そして今から…というところも、このように(写真参照)浴槽の模型を造り、シミュレーションを始めてくれているところが何か所もある。中にはスタッフが自分たちで造って自主的に勉強会を始めているという嬉しい報告も。
「お風呂」という最も難しい内容なのに、この“即効性”の理由は何なのか?
僕が思うに…きっとこの本は、養老孟司さんの理論でいうと「DVD(映像等)は“漢字”」「本(活字)は“ルビ”」ということになるのではないだろうか。「漢字には意味があるから、読めないとしてもおおよその意味はわかる。そして、カナは音としてつながっているので、両方のチャンネルで補い合える」という…つまり、映像とイラスト、活字と音声がそれぞれを補い高め合いながら“難しいことをやさしく”伝えているのだろう。そして、時として想像力をも超える、現場の“直感力”が動き出したのだ。
(上野文規)
模型の浴槽でシミュレーション中
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