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上野文規・下山名月が全国で触れた、出会いは一期一会

サービスの受け手としての責任

 この10日間、病院通いをしています。正しくは通院介助。思いがけず、患者家族になったのです。基本的に、人は自分の立場でモノを見たり考えたりするものらしい。
 たとえば、歩行者のときには車のマナーの悪さや優しさのない運転を嘆いていますが、自分が運転者になると、歩行者や自転車のマナーが気になり、ルール違反や無謀な行動に驚いて「車は急には止まれない!」などと叫んでいるのです。我ながら自分勝手だなぁと思います。
 同じように、普段は介護を提供する側にいて、利用者や家族をみていますが、今回のように患者家族となれば、利用者の立場で医療提供者側をみています。
 病院は変わったと思います。まず、呼称が「さん」から「さま」になりました。また、電子カルテになって他診療科の医師も患者も同時進行で情報を共有できるようになりました(以前、総合病院ではなくテナント病院と揶揄されていたことが嘘のよう)。医師、看護師をはじめスタッフの対応が親切丁寧になりました。病院の理念・基本方針、患者の権利について書かれたプリントを配られるなど、変わる努力をしていることを実感。
 それでは、医師はどうでしょうか。

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 実は、もともと過大な期待をしていないので失望することもありません。ちなみに、WHOが提唱する「五つ星医師」とは、(1)高い医療を提供できる、(2)コミュニケーション能力が優れている、(3)適切な意志決定ができる、(4)マネジメント能力が優れている、(5)地域社会のリーダーシップがとれる…だそうです。
 鎌田實さんと永六輔さんが言われた「良い医師を見分ける十カ条」は、(1)話をよく聞いてくれる、(2)わかりやすく説明してくれる、(3)薬に頼らず生活上の注意をしてくれる、(4)必要があれば専門医を紹介してくれる、(5)家族の気持ちまで考えてくれる、(6)地域の医療、福祉を熟知している、(7)患者の悲しみ、辛さを理解してくれる、(8)医療の限界を知っている、(9)他の医師を快く受け入れる、(10)本当のことをショックを与えないように伝えられる…。
 果たして、これだけの条件を満たした医師がいるでしょうか? たぶんいるのだろうけれど、主治医としては出会えていません。もちろん、すべての医師が“よい医師”を目指して努力しているにちがいないでしょう。逆に“よい患者”の条件があったとしたら、私はよい患者、患者家族でしょうか?
 病院や医師が「患者の立場に立って」と言うのは、つまりは「患者も受け身から主体になり参加してもらいたい」というメッセージだと思います。安全で良質な医療を受けられるかどうかは「患者側にも責任がある」ということです。
 「治療は共同作業」というわけで、お互いに努力が必要なのでしょう。すべてお任せで文句を言うばかりでもなく、自分の状況を伝えて、どうしたいのか、どうしてもらいたいかを、横柄にも卑屈にもならず率直に言うのは案外難しいものです。病気で気が弱くなっていればなおさら。私はまだまだ修業が足りません。
 ところで、「五つ星医師」「よい医師」の医師を介護士に置き換えると、どっと冷や汗が出た。提供する側としてもあまりに未熟であることに気づき、自分のことは棚に上げて恥ずかしいものです。

 話は変わりますが、わが家には猫が二匹います。その一匹が、お見舞いのつもりなのか、ねずみを捕って玄関に置いてくれるようになりました。嬉しい、でも嬉しくない。でも、心配してくれてありがとう。
(下山名月)


コメント


 下山先生の「治療は共同作業」という言葉はとても重みのある言葉ですね。
 先日NHKの番組で、夕張市の医療についての特集を観たんですが、自分の病状が不安で毎日病院に来るお年寄りに何度も何度も生活指導を言い聞かせる医師の姿をみて、「共同作業」というのは本当に地道な努力の積み重ねだと痛感しました。


投稿者: 権兵衛 | 2007年06月05日 13:38

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プロフィール
上野文規・下山名月
(うえの ふみのり・しもやま なつき)
上野文規
介護総合研究所『元気の素』代表。専門は「地域ケア論」「ケースマネジメント」。全国を講演・講座・指導に飛び回るかたわら、施設などの開設準備にともなう「ひと・もの・はこ」の総合プロデュースを手がける。著書に「遊びリテーション学」(雲母書房、1999年。共著)、「入浴介護実践集」(ブリコラージュ、2002年)、「新しい痴呆ケア」(雲母書房、2004年。共著)などがある。

下山名月
民間のデイサービス「生活リハビリクラブ」創始者。現在は生活とリハビリ研究所研究員、元気の素スタッフとして、全国の老人関係施設への実技指導や講演、講座の講師などを務める。著書に「遊びリテーション学」(雲母書房、1999年)、「安全な介護」(ブリコラージュ、2004年。いずれも共著)などがある。
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