性同一性障がいのある受刑者の処遇
12月10日に監獄人権センターのニュースレターの最新号が発行されました。
その中にいくつか興味深い記事があるのですが、今回は、性同一性障がいのある受刑者の処遇について紹介します。
監獄人権センターでは、数年前から件数は少ないものの、何件か性同一性障がいのある人から刑務所や拘置所、留置場での不当な扱いについての相談を受けていました。
手術を受けて外見上は女性の姿になった方でも、戸籍上が男性の場合、男性の被収容者と同じ処遇をされることがあります。中には、刑務官などから体を見せてみろといわれたり、差別的な扱いを受けたりするケースもあります。
性同一性障がいのある被収容者から処遇に関する人権救済の申し立てが行われ、日弁連は2009年と2010年に刑務所や拘置所に申し立て人である被収容者の性自認を尊重した処遇を行うよう勧告をしました。
2009年9月17日の勧告
'日弁連 刑事施設 性同一性障 勧告'
2010年11月9日の勧告
'日弁連 刑事施設 性同一性障 勧告'
また、2006年、2007年には、東京地裁(控訴審は東京高裁)や名古屋地裁で、性同一性障がいを有する被収容者が身体検査や髪形に関して男性受刑者と同じ扱いを受けたことについて損害賠償を求めて訴訟を提起しました。
損害賠償というのは、違法行為があったときに精神的な苦痛を受けたということで賠償を求める裁判なので、職員の扱いに違法性があったのかどうかということが争点となります。
しかし、刑事施設における性同一性障がいの受刑者の扱いについて、現在の法律や規則では規定がないため、いずれの裁判でも違法性は認められませんでした。
刑務官が性同一性障がいのある被収容者の体についていろいろ言うのはもってのほかですが、“男性受刑者の髪型を五分刈りにしなくてはならない”という日本の刑務所で行われている髪形の指定も、女性と自認している被収容者にとっては辛いものだと思います。
残念ながら、性同一性障がいのある被収容者の処遇については国際的にもまだ基準などは整備されていないので、他の国ではどのような処遇を行っているのかわかりません。しかし、五分刈りのような髪型の規則は、欧米ではあまりきいたことはなく、日本の制度自体が少し時代遅れなのかもしれません。
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