歯科治療
刑務所や拘置所でも歯科治療を受けることができます。
しかし、刑事施設に関わる歯科医師が不足していることもあり、申し込みをしてから半年、もしくは一年以上たってやっと歯医者さんに診てもらえるということも少なくありません。
監獄人権センターにも、この状況を改善してほしいという手紙はたびたび届きます。
ある受刑者は、手紙の中で「拘置所で、ある日突然、歯科治療をすると職員に言われて、自分は申し込んでないのになぜかと思ったら、1年以上前に申し込みをしていたということだった」と書いていました。
なぜこんなことが起こったのでしょうか?
この方は、拘置所で歯科治療を申し込んだのですが、治療されないまま保釈され、外で治療を受けました。その後、判決で有罪になったため、もう一度拘置所に収容されたのです。そして、拘置所に戻ったときに以前申し込みをしていた歯科治療の順番が回ってきたというのです。
この方は、「自分はたまたま外に出たときに治療ができたけど、そうじゃない人もたくさんいて、これではひどすぎるのではないか」と手紙で訴えてきたのです。
歯科治療を申し込むというのは、歯が痛いなど自覚症状があるからでしょう。申し込み後半年もしたら、虫歯も進行し、痛みもさぞかし増していることでしょう。
また、歯科治療の相談でよくあるのは、入れ歯についてです。
刑務所では、治療といっても、基本的には歯を抜くだけです。受刑者は健康保険に加入していないので、差し歯や入れ歯は自費負担になるからです。
お金に余裕がある受刑者ならば、刑務所内で入れ歯などを作ってもらう場合もあります。
入れ歯の場合、30万円くらいで作ってもらえるようですが、自由診療なので、中には100万円とか200万円とか請求されたというケースもあります。
入れ歯は微妙な調整が必要で、刑務所の外でも、ぴったりと合ったものを作るのには苦労するといいます。「100万円近く払って作った入れ歯が合わなくて、調整してほしいと言ったがしてもらえなかった。泣き寝入りをするしかないのか」という相談もありました。
また、「総入れ歯の治療をはじめたところ、高い治療費を請求されたので、払えないと言ったら、歯を全部抜いたところで治療を中断されてしまい、流動食しか食べることができなくなった」という相談もありました。このケースでは、弁護士が刑務所と何度も交渉し、入れ歯を作ってもらいました。
刑事被収容者処遇法の第56条では、刑事施設の中でも社会一般と同等の治療を行うよう規定していますが、歯科医師に限らず刑事施設では医師のなり手がなかなか見つからず、とても適切な治療が行われているとは言い難いケースもあります。
もちろん、すべての医師が悪いのではなくて、監獄人権センターに届く手紙に書かれているようなケースは一部だとは思います。
このような手紙を読むにつけ、刑事施設の医療部門は厚生労働省へ移管するべきなのではないかと思っています。
近隣の市立病院や総合病院の診療所として刑事施設内に開設することによって、受刑者はいろいろな医師に出会うことができるようになります。そして、医師も、刑事施設内での診察と同時に外の病院でも診察するので、受刑者も一般の方と同じように診察することができるのではないでしょうか。
コメント
「刑務所では、治療といっても、基本的には歯を抜くだけです。受刑者は健康保険に加入していない」ということを初めて知りました。自分が、いかに受刑者の処遇に無知であるか、思い知らされました。
それにしても、申込制で、1年も待つ、というのはあまりにもひどいと思います。痛み止めの薬も貰えないのでしょうか。歯を抜きっぱなしというのもひどい話です。入れ歯の自由診療にしても、たぶん、一度造ったらアフターケアなどなく、そのままなのでしょうね。噛み合わせや、歯槽膿漏などは体全体に影響を及ぼします。歯科医師会をはじめ、歯科技工士、歯科衛生士、歯科治療材料会社などの協力で、ボランティアなど募れないものでしょうか。
医療部門を厚労省管轄にして、受刑者が診察を受けられるようにする、というのは、とてもよい案だと思います。受刑者も健康診断を定期的に受けられ、早期治療につながる制度があってもいいのではないでしょうか。財源の問題が何をするにも壁になっているのでしょうか。それ以前に、受刑者に対する「心の壁」がある気がします。
これは国による犯罪ではないでしょうか?受刑者と言えども、守られるべき基本的なものすら守られないこの現状に涙が止まりません。こういった内容はもっと大々的に広報して、いかに国が裏でひどい事をしているかを国民に知ってもらうべきだと思います。
今更投稿するのも何ですが、今回ニュースになっている福島刑務所の話なんて受刑者間では「周知の事実」です。
「歯がちょっとでも痛くなったら、直ぐに願箋を提出しろ」と先輩受刑者から教えられますので。
受刑者の「格」にもよりますが、早い人で半月。「格の低い受刑者」になると半年待たされるのは普通です。格の高い受刑者とは1級受刑者やその工場で一番長くいる受刑者、他には指導工・計算工・衛生工などの3高受刑者や「暴力団」になります。
格が高い受刑者は「常時工場にいて貰わないと、刑務作業に支障を来す恐れがある」ので、これは早く治療してやらねばなりません(暴力団の受刑者は、暴れるやんちゃな受刑者を抑制する効果があるとされています)。
現在の刑務所は独居に二人在住が普通で、8畳間に9人、10人が住んでいますから、入居率120%を超えているのが現状です。歯科治療が遅れるのは已む得ない事ですが、外では家族が「健康保険」を支払っているのに「健康保険が適用されない」という異常な法律だけは「何とかして貰いたい」ものですね。
歯科治療に限りません 風邪をひいても 直ぐには 診てくれません 熱が 38度以上ないと 風邪と 認めてはくれないのです
同感しました。ワーキングプアーなど歯科界を取り巻く環境は厳しいですが、受刑者の人権を考えれば、やはり個人での対応は難しいです。歯科医師会や保険医協会等が対応するのがベストかと思います。
私は40年ほど刑務所の歯科治療をしてきましたが国は外部に依頼をしてるだけでそれが当たり前と思っていて僅かな謝金で尚且つ回数を増やし謝金は同じです、これでは開業医はやって行けません、国が責任を持って取り掛かる問題です。
このケースは歯の治療に関することですが、私の知っているところでは、他の治療においても、後手後手の対応しか出来ないのが刑務所の現状です。現場の看守さん達は勿論、受刑者も節水節電で頑張っていますが、これ以上はそういうことでは改善できないでしょう。
薬なども必要最低限度しか出ていませんでしたし、作業中に急に様態が悪くなったとしても横になる事は出来ず作業台に伏せておく事しか出来ない、そういう状況の中で、体だけでなく心を病む人もいます。
国の官僚達が、本当に刑務所の待遇を改善しようと思うのなら、もっと受刑者の心の苦しみと向き合わなければ、当体よい方向には向かっていかないと思います。
ここに投稿されている内容を読むと、刑務所の医療体制については早急に改善しなくてはならないとあらためて思いました。刑事被収容者処遇法も施行から5年たち、見直しの時期が来ていますので、医療制度についてもしっかりと検討をしてもらいたいと思います。
※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。