韓国の「陪審員」、日本の「裁判員」
12月5日に「『死刑に異議あり!』キャンペーン『東アジア死刑廃止大会』」の第一分科会「死刑と向き合う市民~裁判員制度と韓国参与員制度を比較して~」が開催されました。
監獄人権センターは、昨年よりアムネスティ・インターナショナル日本と共同で「死刑に異議あり!」キャンペーンを呼びかけ、今回、この裁判員制度に関する分科会の主催を担当したのです。
韓国では、日本より早い2008年1月から、市民が刑事裁判に参加する「国民参与員制度」が試験的に導入されています。韓国の参与員制度は、重罪事件のうち被告人が参与員裁判を選択した場合に行われるため、それほど件数は多くありませんが、2008年は約60件の参与員裁判が実施されたとのことです。
韓国・釜山で実際に参与員裁判を傍聴したジャパンタイムズの神谷記者や、参与員制度を研究している学者や弁護士などを講師に招き、韓国の制度を学び、死刑事件に直面した場合、裁判に参加する市民はどのような判断をするのかということを考えるセミナーを開催しました。
仙台弁護士会の崔弁護士の調べによると、韓国の参与員制度では、裁判に参加する市民のことを「陪審員」と呼んでいるそうですが、死刑や無期刑の事件では9人、そのほかは7人、被告人が公訴事実を認めている場合は5人と、事件によって参加する陪審員の人数は異なります。
評決は日本の裁判員制度のように多数決ではなく、原則、全員一致で行われます。陪審員は有罪か無罪かということと量刑を決定しますが、裁判官はこの評決に拘束されないため、2008年の参与員裁判のうち7件が陪審員の評決が反映されない判決が下されたとのことです。いずれも、評決では無罪もしくは一部無罪とされたのですが、裁判官が有罪の判決を下しました。
また、韓国の刑事裁判では、日本と同様に、下級審の無罪判決に対して検察官が上訴することが認められているため地裁の参与員裁判で無罪となっても、検察官が控訴することもできます。このため、弁護人からは、「何のための参与員制度なのか?」という疑問の声も上がっているそうです。
韓国ではすでに死刑事件も参与員裁判で何件か審理されているとのことです。そのうち、2008年8月の裁判では、検察官の死刑求刑に対して陪審員は無期刑とし、2008年12月の裁判では、検察官の死刑求刑に対して評決では懲役13年としたそうです。崔弁護士が新聞を調べたところ、7人の陪審員の量刑に対する意見が分かれたため、平均値をとって13年となったとのことです。
ジャパンタイムズの神谷記者は、傍聴した釜山地方法院(裁判所)での参与院裁判の様子を紹介されました。傍聴記録は、『世界の裁判員 14か国 イラスト法廷ガイド』(神谷説子、澤康臣著、2009年日本評論者)に収載されています。
傍聴した裁判所には、非常に大きなスクリーンが設置されていて、検察官、弁護人ともにパワーポイントで要点を示しながら弁論を行っていたそうです。さらに、韓国では取り調べの様子が複数のレコーダーで記録されているのですが、被告人に言語障がいがあったため弁護人の請求によりその録画された映像が開示され、法廷で流れたそうです。
取り調べの様子は録画されていても裁判で公開されることは珍しいようで、通常は、検察官が取り調べの時の質問と回答を文字で示すのみとのことです。
この事件では、録画された取調べの映像によって、検察官が示した文字から受ける被告人の印象と映像で見る印象とがだいぶ異なることがわかったとおっしゃられていました。
神谷さんは韓国やアメリカなど7カ国の市民参加の裁判を傍聴されたとのことですが、市民参加の裁判制度を持つ国のほとんどが死刑廃止ないし停止されている国であったことに驚いたとの感想を述べられていました。
また、神谷さんは、裁判に参加する市民への教育についてもお話しされていました。その中でアメリカについても触れたのですが、「陪審員の選任手続きが人前で行われ、その場で裁判官が刑事裁判の原則、無罪推定の原則や被告人の黙秘の権利が憲法で保障されていることの説明があり、その後裁判官からさまざまな質問がなされる。その中に、公正公平な判断を下せない理由があるか、という質問があり、陪審員の候補者は、この質問の回答を考え、また他の人の回答を聞いているうちに、公平とは何かということを考えるようになる」ということをおっしゃられていたことが印象的でした。
日本の裁判員制度は、まだ始まったばかりということもあるからかもしれませんが、事件や制度そのものばかりが注目されてしまっていて、刑事裁判の原則や「公平公正な判断とはどのようなことか」ということが、あまりニュースでは議論になっていないように感じます。
韓国の国民参与院制度もまだ試験的な導入の段階であって、来年、今までの審査の検証を行い、最終的な制度の導入は2012年からということになっています。まだまだ不十分な点もたくさんあるようです。
死刑についても、韓国は10年以上執行していませんが、制度自体は存続していて、死刑判決を言い渡すこともできます。実際に、検察が死刑を求刑している事件もあり、参加した陪審員は死刑が妥当かどうかという判断もしています。
このような市民参加の裁判が実施されることによって、韓国が今後死刑制度をどのように扱うのかということに注目しています。
「『死刑に異議あり!』キャンペーン『東アジア死刑廃止大会』」のイベントはまだまだ続きます。
12日には韓国のカトリック教会の神父を招いて「死刑廃止と宗教者の役割-和解と癒しを求めて」が開催され、13日には、アムネスティ主催の「『死刑はアジアの文化だ』って本当ですか?」というシンポジウムが開催されます。ぜひ、ご参加ください。
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