韓国カトリック教会の取り組み
先週に引き続き、「『死刑に異議あり!』キャンペーン『東アジア死刑廃止大会』」のイベントを紹介します。
12月12日には、「『死刑に異議あり!』キャンペーン『東アジア死刑廃止大会』」を一緒に運営している「『死刑を止めよう』宗教者ネットワーク」主催で「死刑廃止と宗教者の役割-和解と癒しを求めて」というセミナーが開催されました。
写真1:講演の様子
李永雨神父は講演で、韓国カトリック教会矯正司牧委員会のさまざまな受刑者支援の取り組みを紹介されました。
写真2:右が李神父、左は通訳とコメントをくださった朴秉植教授(韓国の東国大学法学部)
韓国カトリック教会矯正司牧委員会の代表である李神父は、多くの受刑者と面会し、刑務所の中でミサなどの宗教行事や矯正プログラムを実施していて、カトリック教徒ではない受刑者にも、普遍的な真理を伝え、矯正、社会復帰の支援をしているとのことです。
韓国の刑務所内では当初、「精神教育」といわれる、あやまった精神を治すというような内容のプログラムが矯正当局によって実施されていたようですが、法務部(日本でいう法務省のこと)から矯正教育を委託されたカトリック教会の委員会によって、受刑者が自尊心を取り戻すようなプログラムが提供されるようになったそうです。
李神父は、「受刑者は決して特別な人、モンスターではなく、暴力を受けた人や、育った環境が良くなかった人などが多く、このようにすごしてきた人たちだけに責任をおわせていいのだろうか」とおっしゃられました。
カトリック教会の委員会は受刑者一人一人を人間として扱い、愛された経験のない受刑者を無条件の愛で包み、自尊心を回復するようなプログラムを提供しているとのことでした。
このプログラムの中で、「なぜ私ここにいるのか、どうして困難な人生を送ることになったのか」を受刑者は考えるのです。
刑務所は、委員会が提供するこのプログラムについて、導入前はあまり評価をしていなかったようで、委員会が何度も申し入れを行ってやっと実施が実現したそうです。
講演の途中で、刑務所の中でプログラムを実施している様子の写真が紹介されました。
色とりどりのテーブルクロスがかけられている丸テーブルのある部屋でプログラムを受講している受刑者の様子や、刑務所の中でのミサの様子、受刑者が洗礼を受けている様子の写真、刑務所を訪問した俳優と受刑者、刑務官などが並んで撮影された写真もありました。写真の内容にも驚きましたが、それよりも、刑務所の中でのプログラム実施の様子を撮影することができるという事実に非常に驚きました。
日本では、刑務所内の情報は一般市民に対しては、非常に限られた部分しか公開されていませんし、外部の協力者が写真撮影をして、その写真を講演会で利用するということはあまり聞いたことがありません。
もちろん、受刑者のプライバシーは守られなくてはなりませんが、刑務所の中で行われている矯正プログラムは、公開されることによってよりよいものになっていくことができるのではないかと感じました。
韓国カトリック教会矯正司牧委員会は、矯正プログラムのほか、出所者の支援プログラムの提供や死刑廃止運動、被害者家族の支援事業にも取り組んでいるとのことです。
例えば、出所者の社会復帰を支援するための宿泊施設をつくり、出所者から相談を受けたり、仕事や住居などを紹介したり、支援プログラムを実施しているとのこと。李神父自身もここの施設で出所者の方たち10人と一緒に暮らしているそうです。
こういった様々な活動の話を聞いていて特に驚いたのは、同じ建物の中に、出所者の宿泊施設と被害者家族の自助グループの部屋があることです。被害者、加害者問わず、カトリック教会では困っている人を支援するということなのでしょうか。
この委員会は2008年6月から「喜びと希望の銀行」を開設し、被害者家族と出所者に起業するための教育プログラムを提供し、審査の後、会社の家賃や創業のための資金を貸し出すということも行っています。
この「銀行」の特徴は、直接出所者に現金を渡すのではなく、購入先に支払いをする点です。賃貸物件等を借りるときに「銀行」が大家さんや不動産屋にお金を支払ったり、オフィス家具などを購入する場合にそのお店に支払ったりするのです。
重要なのはアフターケアで、お金を貸した後もずっと関係を持続させることが欠かせないと李神父はおっしゃられていました。
日本の「『死刑を止めよう』宗教者ネットワークと同じように、韓国の死刑廃止汎宗教者会議というグループでは、キリスト教でもカトリックやプロテスタントなど宗派を超えて、また、キリスト教や仏教といった宗教も超えて宗教家たちが連帯して死刑廃止運動に取り組んでいるとのことです。
李神父の話をうかがって、日本にも出所後の支援を担う団体が必要であるということをあらためて感じました。
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