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秋山映美の「監獄から社会へ」

宮城刑務所での暴行事件

 今年9月30日に、東京高裁で、宮城刑務所での受刑者に対する暴行事件について、国に対して賠償を命じる判決が下されました。

 少し詳しく説明すると、2005(平成17)年5月に、宮城刑務所の複数の受刑者から、「刑務官から暴行を受けた」という相談や、「刑務官がほかの受刑者に暴行を行なっている様子を見た(ほかの人の居室を直接見ることはできないけれども、何か暴行をしているような音がしたのを聞いた)」という手紙を受け取ったのです。
 それらの手紙をよく読んでみると、一人の受刑者が暴行されたという時間と、暴行の様子を見たという受刑者が示している時間とがほぼ一致していたため、「これは調査が必要ではないか」ということになり、監獄人権センターは弁護士に依頼して調査を行ないました。

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 監獄人権センターには、ボランティアの弁護士が数人しかいないため、相談に対しては原則として手紙で回答しているのですが、今回のように、ひどい暴行を受けたケースや適切な治療が受けられずに生命にかかわるような重大な事態になっているケースは、つてを辿ってなんとか弁護士につなぐこともあります。

 今回の事件では、相談を寄せてきた受刑者と面接をして聞き取りをするだけでなく、裁判所の手続きを経て、膨大な証拠書類を刑務所から入手したのですが、この書類があまりにもたくさんあり、弁護士とともに何度も宮城刑務所に足を運んだことをよく覚えています。
 途中で、暴行を受けた受刑者が他の刑務所に移送されてしまったということもあり、東北地方の別の刑務所まで資料を入手するために出かけたこともありました。
 そして、2005(平成17)年12月に、被害を受けた3人の受刑者が国家賠償を請求しました。
しかし、そのうちの一人が、宮城刑務所に在監中の親族からの強い働きかけにより途中で訴えを取り下げてしまうという事態が発生しました。
 また、一審の東京地裁での裁判では、暴行を行なったとされる刑務官の証人尋問の際に、「証言を行なう刑務官の命が狙われるかもしれない」という国の代理人からの申請により、防弾ガラスの準備や遮蔽措置、傍聴人の身体検査を行なうなど、前代未聞のものものしい裁判となりました。

 この事件、一生懸命集めた証拠書類と宮城事件弁護団の熱心な活動により、一審では、金額は少なかったものの、一人に対しては25万円、もう一人に対しては18万円の国の損害賠償責任を認める判決が2009(平成21)年3月31日に下されました。
 その後、国が控訴しましたが、9月に東京高裁が国の控訴を棄却したことにより、賠償命令判決が確定したのです。
 「原告(暴行を受けたと訴えた受刑者)が連行中に勝手に転び、その勢いで刑務官も転倒した」という刑務官の主張に関して、弁護側の「わずか1週間のうちに同様の状況で複数の受刑者が負傷するという証言は不自然である」という主張や、宮城刑務所のほかの受刑者への出張尋問の内容などから、裁判所は刑務官の証言を不自然であり信用性がないと判断したのです。

 刑務所における人権侵害に関しては、訴訟を行うには証拠資料の入手が非常に困難であり、費用も労力もかかったうえで敗訴することが多い中、今回の勝訴判決は画期的でした。

 事件発生当時、宮城刑務所では、一部の刑務官が受刑者に携帯を差し入れるなどの不祥事もあり、刑務所全体があまりいい雰囲気ではなかったようで、ほかの刑務所から屈強な警備隊の刑務官を連れてくるなどして雰囲気を変えようとしていたと聞いています。
 確かに、このような不祥事の後ということもあり、刑務官の方たちも非常に苦労されていたのだと思いますが、やはり、暴力は暴力の連鎖しか生まず、ざわついている刑務所の状況を改善するための最善の方法ではないと思います。
 そうはいっても、現状の刑務官の定員では、刑務官の人数不足により、一人一人きめ細やかな処遇を行なえないのです。

 宮城刑務所事件裁判の報告は、監獄人権センターのニュースレター第61号(11月15日発行の最新号)や、それ以前のニュースレターにも掲載されていますので、ご関心がある方は、ぜひ監獄人権センターまでご連絡ください。
 同じ号で、刑務所の視察委員の方に感想を寄せていただきましたが、そこでも、適正な数の刑務所スタッフが配置されていないという問題が指摘されています。

 今刑務所の中にいる受刑者たちのほとんどは、いずれ私たちの社会に戻ってくる人たちです。刑務所をどのようにしたら、私たちの社会に受刑者が復帰してくることができるのか、みなさんと一緒に考えていきたいと思っています。


~~監獄人権センターからのお知らせ~~
 アムネスティ・インターナショナル日本と一緒に取り組んでいる「死刑に異議あり!」キャンペーンでは、12月5日(土)~14日(月)の日程でイベントを開催いたします。
 12月5日は、監獄人権センター主催のセミナー「死刑と向き合う市民」~裁判員制度と韓国参与員制度を比較して~」を、午後2時から明治大学リバティタワー8階1085教室で開催します。ぜひご参加ください。


※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
秋山 映美
(あきやま えみ)
NPO法人監獄人権センター
理事
明治大学大学院法学研究科修士課程を修了。明治大学法学部在学中から、監獄人権センターにボランティアとして参加。受刑者や家族などから届く、月200件にものぼる相談の手紙にボランティアと協力して対応したり、受刑者の現状を世に訴えたりなど、刑事施設内にいる受刑者の人権に関わる活動を続けている。
監獄人権センターHP
 http://cpr.jca.apc.org/
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