釜ヶ崎で出会った3つの団体 その1「ストリートワイズ・オペラ」
8月と9月に、大阪の釜ヶ崎に行ってきました。
8月に訪問したときには、イギリスからストリートワイズ・オペラの方たちが来日していて、釜ヶ崎の「紙芝居劇むすび」の人たちとワークショップを行っていました。大阪でその受け入れを担当していたのは、ココルームというアートNPOです。
ストリートワイズ・オペラ(STREETWISE OPERA giving homeless people a voice)は、音楽など、アートを通じてホームレスの方たちを支援しているイギリスの公益団体です。
2002年に設立され、毎週同じ時間・同じ場所でホームレスの方たちにワークショップを提供しています。現在は、11ヶ所のホームレスサポートセンターで活動を展開しています。
そして年に一度、ロイヤルオペラハウスでオペラの公演を行っており、この公演が毎回大好評で、イギリスの大手メディアで、4つ星、5つ星の評価を受けているのです。
大阪では、シンポジウムや懇親会などを通して、ストリートワイズ・オペラの代表マット・ピーコックさんから、その取り組み内容や、イギリスのホームレス支援の現状を伺うことができました。
マットさんがなぜオペラでホームレスを支援することを思いついたかというと、7年ほど前にきっかけがあったそうです。
マットさんがホームレスサポートセンターのナイトシェルターで働いていたときに、ある著名な政治家が、「ホームレスというのは、オペラハウスから出てきた私たちが跨(また)いでいく存在だ」(当時オペラハウスの周りにはたくさんのホームレスの方がいたため)という発言をしました。
これを聞いたサポートセンターに来ていたホームレスの人たちが、自分たちがオペラに出演することができたら、何かが変わるのではないかと考えたというのです。そして、マットさんたちスタッフもその考えに同調し、オペラ作品を上演するに至ったそうです。
ストリートワイズ・オペラの活動は広く認められるようになり、マットさんは、今では、保守党のホームレス・アドバイザリー・パネルも務めています。
イギリスでホームレスとなっている方は、刑務所や拘置所な収容されたことがある人、軍隊に所属していた人、離婚や家庭の事情により家や仕事を失った人たちが多いそうです。
印象的だったのは、現在ストリートワイズ・オペラのワークショップに参加して4年目になるケニーさんのお話です。
ケニーさんは、最初は「彼は毎日お酒ばかり飲んでいるからワークショップには参加しないだろう」と、ホームレスセンターの人に言われていたそうです。
最初の3ヶ月、彼はただ見ているだけでした。しかし、ある日「バックステージの仕事を手伝ってほしい」とお願いしたところ、ケニーさんはそれを引き受け、ワークショップにも徐々に参加するようになったそうです。
オペラ公演を行うとき、ケニーさんは、10年も会っていない娘さんにチケットを送りました。当日、その娘さんは息子(ケニーさんの孫)も連れてきました。ケニーさんは、そこで初めて孫と会うことができたのです。
ケニーさんは、高齢のため就職することはできませんでしたが、今でもストリートワイズ・オペラの活動に参加しているそうです。
マットさんは、次のようにおっしゃっていました。
「私たちは、自分を肯定的に見ることができれば、自分自身を変えることができる。私たちは、歌を歌ったり、オペラを上演したりすることで、ホームレスの人たちが自信を持つことを支援している」
ストリートワイズ・オペラはなぜこのような大きな活動ができるのでしょうか?
イギリスでは、全国に1000ヶ所近くホームレスサポートセンターがあり、食事や住居の支援、コンピューターのトレーニング、メンタルケアなど、生活に欠かせない支援の大部分は行政が行っているため、その部分の心配はしなくてよいということがあるからだと考えられます。
さらに、サポートセンターはあえて高級住宅街に設置されており、その地域の住民たちが必然的にホームレスの方々を見かけるため、行政がホームレス支援を行うことに対して地域住民の理解が得やすいという面もあるということでした。
このような話を聞くと、日本はどうだろうかと考えます。
日本では、行政のホームレス支援もまだ十分ではなく、お金のないNPOや市民団体が、食事や住居の提供といった生活に欠かせない支援から生きがいづくりに至るまで、手弁当で支援しているようなところも多いのではないかと感じます。そのため、NPOや市民団体にとって、「居場所」作り、さらに生きがいづくりに絞って活動を行うのは難しいのではないかと思いました。
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