「貧困と監獄」
5月16日に「貧困と監獄~厳罰化を生むすべり台社会~」というセミナーを開催しました。
全国各地からおよそ200人の方がセミナーに参加され、熱気あふれるセミナーになりました。多くの方がこの問題に関心を持たれているということを実感する場となりました。
今回は、その報告と感想をお伝えします。
当日のパネリストは3名。
まず、『貧困という監獄』という本を翻訳した森さんは、フランスで刑務所人口が増えたことについてふれ、アメリカから輸入された厳罰化政策がフランスでもてはやされ、貧困地域の若者たちを取り締まる法律を作る、警察の活動を活発に行うというような政策変更があったことがそれに関係していると紹介されました。
もともと貧しかった地域の人たちが、刑務所に入ったことによって、さらに貧困が加速しているという問題が生じているとのことです。出てきた時には、職はない、身元を保証してくれる人もいない…。
著者のロイック・ヴァカンさんからは「監獄と貧困の問題について、状況を変えるために一緒に頑張りましょう」とのエールをいただきました。
もう一人のパネリストは、自立生活サポートセンター・もやいの事務局長で、年末の派遣村の村長としても有名な湯浅誠さんでした。
今の日本には、貧困から抜け出す施策が欠けていて、労働者は一度労働市場からはじかれてしまうと、家族の元へ戻る(私的なセーフティネット)か、ホームレスになる、もしくは自殺や犯罪に向かってしまう。そうでなければ「Noといえない労働者」になるしかない状況があると言います。
この状態を湯浅さんは「貧困スパイラル」と名付けられていました。
このような状況を変えるためには、生活保障と「居場所」を作ることが非常に重要であると言います。
「居場所」とは、「頑張りが足りないんだ」とか「死ぬ気で働いてみろ」とか言われず、そのままで受け入れてくれる場。みんなが集うサロンでも、デモや集会でもよいとのことです。
一度貧困状態に陥ってしまった人たちは、いくら生活保護や住居を提供しても、この「居場所」が提供されていなければ、孤独に耐えられずに、また元の貧困状態に戻ることになってしまいます。
では、私たち監獄人権センターも、受刑者やその家族などに「居場所」を提供できているのでしょうか?
みんなが集うサロンを作ることはなかなか難しいのですが、相談できる場所というような、心のよりどころとしての「居場所」を提供するのが監獄人権センターの役割ではないかと思います。
最後のパネリストは、龍谷大学法科大学院教授の浜井浩一さんです。
犯罪白書等の資料によると、近年、日本では殺人事件や重大犯罪事件は減少しています。しかし、数字を見る限りでは治安が悪いとはいえない日本が、アジア地域の中で唯一、刑務所人口と死刑判決の両方が増加しているという不思議な現象が起こっているとのことでした。
これは、治安が悪化したと認識させてしまう報道を目にした市民が不安感を抱くようになり、市民レベルでの厳罰化の世論が高まり、さらに、世論が政策決定に影響を与えているからではないかと分析されていました。
どの国でも、市民レベルでの厳罰化の議論はなされているのですが、それを受けて政府が厳罰化政策を決定する国はアメリカやイギリス以外はあまりないそうです。
セミナーの後半は、『貧困という監獄』の共同翻訳者の菊地さんも壇上に上がって、監獄人権センターの海渡も加わり、貧困や厳罰化政策にまつわる問題の解決策を探るためにディスカッションをしました。
刑務所には高齢者や障がいのある方たち、福祉の支援が必要な方たちがたくさん収容されているが、そのようになってしまった仕組みを考え、社会政策の中で刑事政策を考えていく必要があるとおっしゃられたのは浜井さんでした。
湯浅さんは、福祉の問題に関心を持って活動している人と、刑務所や犯罪の問題に関心を持っている人が、一緒になって問題解決のために行動をする必要があるのではないかと提案されていました。
専門分野の異なるパネリストの方々に講演をしていただいたのですが、皆さん、話の軸になる部分は共通していて、貧困問題を厳罰化で対処すればするほど貧困は加速してしまう、この負のスパイラルを断ち切るためには、福祉政策の充実が必要であるということをおっしゃられていました。
「それは簡単です。今の社会を刑務所よりもましな場所にすればいいのです。」
「刑務所人口を減らすためにはどうしたらいいのか?」という問いに対する湯浅さんのメッセージです。
福祉の問題に関心を持って活動している人と刑務所や犯罪の問題に関心を持っている人が一緒になってこの貧困と監獄の問題を考え、一人でも多くの人が幸せになれるような政策、福祉の制度を考える必要があると思いました。
コメント
ブログを書いている佐野です。
一時期、死刑廃止というだけで、ネットで集中攻撃を受けた時期がありましたが、この厳罰化の流れの中で、監獄人権センターは大丈夫ですか?
裁判員制度のプラス面として、市民が、厳罰化とは具体的にどういうものか、人に死刑を言い渡すことがどんな感じか、肌で知ってもらういい機会だと思っています。
湯浅さんのもやいにはぼくもサポーターになっていますが,ようやく地道に反撃できる空気になってきているように思います。
この問題指摘は指摘で正しいのですが、実際取られている政策は心神喪失者等医療観察法であり、さらにそれを拡大適用して知的障害者や発達障害者をも「触法障害者政策」として進めていこうという動きです。 これはとても危険な動きです。
05年読売新聞9月20日の紙面より、
福祉のトップセミナーin雲仙2005 「地域で暮らす」障害者へ=特集
《首長夢トーク出席者》
◇浅野史郎・宮城県知事
(コーディネーター兼)
◇潮谷義子・熊本県知事
◇大蔵律子・神奈川県平塚市長
◇鈴木望・静岡県磐田市長
●長崎アピール2005
◆障害者自立支援法案の早期成立求める
▽障害者自立支援法(案)の早期成立、施行が必要。
▽障害者支援の充実のため、介護保険の保険料負担者とサービス受給者の範囲
を2009年度から拡大する。
▽触法、虞犯(ぐはん)障害者の支援サービスを整備し、社会適応訓練のシステムを充実させる。
▽障害者施設の解体は当事者の意見や地域特性を踏まえ、速やかに進める。
▽障害者が施設から地域へ移行するための住まいや活動の場、訓練システムを整備する。
▽在宅の障害者と家族が地域生活を継続できるための支援などを充実させる。
▽国や県に頼らず、充実した福祉を実施するため、市町村は実力をつける必要がある。
▽元気な高齢者には、地域活動の先頭に立って、中心的役割を果たしてほしい。
反保安処分、「犯罪」を個人の自己責任や資質に求めていく傾向に対してははっきりノーといわないとさらに息苦しい社会を作り出しかねないと案じております
福祉や支援は決して犯罪防止の手段とされてはならないと考えます。
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