最良の刑事政策とは…
「最良の刑事政策は最良の社会政策である」―ドイツの刑法学者フランツ・フォン・リスト(Franz Eduard von Liszt)の言葉です。
連休中に2冊の本を読み、このことについて考えていました。
1冊目は、ロイック・ヴァカンの『貧困という監獄 グローバル化と刑罰国家の到来』(新曜社、2008年)という本です。
この本は10年ほど前に書かれた本で、ヴァカンは、1990年代から採用されてきたアメリカ型の刑罰政策、ゼロ・トレランス(zero torelance)の政策が世界を魅了し、南アメリカ、ヨーロッパ、アフリカと世界へと広がっていて、各地で刑務所人口が激増していると指摘しています。
※ゼロ・トレランスとは、日本語では「不寛容」などと訳され、定められた規則等に従わなかった場合に、例外なく毅然とした対応を行うことを意味しています。
このころからアメリカは、福祉手当の予算を削減し、福祉の対象者の監視を強化し、そういう人たちを低賃金で誰もやりたがらない労働市場へと組み込んでいったそうです。
監視の強化によって、手当を受給するためのさまざまな制約が課せられ、それに違反すると制裁が科せられるようになりました。
その結果、貧困層は働いても働いても全く生活は楽にならず、少しの違反で刑務所に収容されるようになっていったのです。
このように、福祉政策を縮小し、刑罰を強化したアメリカの刑務所人口は、200万人を超えるほどになったのです。
アメリカでは、100人に1人が刑事施設に収容されています!
もう1冊は、日本犯罪社会学会編の 『グローバル化する厳罰化とポピュリズム』(現代人文社、2009年)という論文集です。
この本の中で、タピオ・ラッピ=ゼッパーラさんは、世界各国の犯罪に関する統計と福祉に関する統計とを分析し、厳罰化政策を進めている国とそうでない国はどこが違うのかということを論じています。
通常、受刑者が多い国ほど犯罪の発生件数も多いと思われがちですが、ゼッパーラさんの分析からは、受刑者数と犯罪発生数には関連がないことがわかります。
ゼッパーラさんの分析によると、福祉政策が充実している国(フィンランドなどのスカンジナビア諸国)ほど、刑事施設に収容されている人の割合が低くなっているとのことです。
また、2大政党制をとる英米型の国々ではなく、スカンジナビアや西ヨーロッパのような合意形成的民主主義の国々のほうが、拘禁率も低いことがわかります。
私が思うに、福祉政策が充実している国では、人々の格差が小さく、自分の立場が保障されているために他人に共感しやすく寛容になれるからではないでしょうか?
社会保障福祉政策が充実しているこれらの国々では、国や制度への信頼度も高いので、人々はあまり不安に思わず、犯罪対策に関しても寛容で、「危機的状況だ!」ということにはなりにくいようです。
「今の政策では国が危機的状況となってしまう」と主張して、野党が与党から政権を奪取する米型の政治体制のほうが、どうしても、より厳罰化政策をとる傾向になってしまうのでしょう。
なるほど、それでは、現在の日本はどちらに向かっているのでしょうか?
テレビでは繰り返し犯罪報道がなされ、厳罰化に向かっているように見えますが、日本は今、アメリカ型の刑罰国家を選ぶのか、それともスカンジナビア諸国のような福祉国家を選ぶのか、その転機を迎えているのかもしれません。
この続きをじっくりと考えてみたいという方は、5月16日午後1時30分からのセミナー(明治大学リバティタワー1階)に足をお運びください。
『貧困という監獄』の訳者の菊地恵介さん、森千香子さん、『グローバル化する厳罰化とポピュリズム』の編者の浜井浩一さんに加えて、派遣村村長の湯浅誠さんを迎えてセミナーを開催します。
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